探偵は教会に棲む

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Case2:四方学院の怪奇現象


「ねぇ、聞いた?」
「うん、校内あの噂でもちきりじゃない! 知らない方が変よ」
「だよねー! ホントに、どうなってるんだろうね?」
「さぁ? 専門家でもいれば別じゃないの?」
「専門家って……大学の教授とか科学者? そんなの知り合いにいるわけないじゃん! だって……」
 休み時間。お喋りに興じる二人の女子高生に近寄る、同じく女子高生がいた。彼女は何かと浮きがちで、教室でも一人で音楽を聴いていたり、カバーのついた何らかの本を読んでいる『この高校』にしては珍しい生徒だった。しかし、体格というか、身体のラインは本当に女子校生かと疑わずにはいられないほどに『女性らしい』ラインだった。
「……金さえあれば、その噂とやらも解決できるワケ?」
 『彼女』と会話をするのは初めてだった。それもそのはずで、『彼女』は入学以来、入学式から一ヶ月が経過した今でも、自己紹介と授業中の珍解答以外の言葉は発さなかった。『無口で近寄りがたい』と周囲が判断し、そのように接するのもある意味では『当たり前』だ。話し込んでいた二人は同時にこう思った。
 ――確か彼女は、『三ツ星』って苗字だっけ?
 その『三ツ星』何とかさんはにやりと笑う。その笑いはこれまでの『静か』だという評価を覆すのには十分だったし、いい意味で、『この高校』には似合わないと思われていた少女のモノとは思えない、実に『イイ笑顔』だった。


 公園で起きた、ホームレス殺人事件――恩義を感じる本名不明のホームレス・ゲンさんの事件を無事に解決した智也は、「少ないけど……」と前置きされた上で、警察から本当に少ない額の金を受け取った。
「……本当に少ねぇな! 警察が『税金泥棒』呼ばわりされんのも納得だぜ!」
 勝手にやったことの結果で、普通の人間ならば素直に幸運だと感じるであろうところで、こうやって文句を言うのがこの青年だった。
『もう少しの間ここにいる気はないのかい?』
そう口にした被害者のホームレス仲間――男の名など進んで覚える気は毛頭ないので既に忘れた――は、心底残念そうに引き止めたのだが、少しの額とはいえ現金が手に入ったのだ。誰がまだ冷えるこの時期に野外同然の場所にいたいと思うだろうか。
 智也は簡単に別れを告げると、状況に備えて前もって契約済みの自分の城、つまるところマンションへ向かった。以前見学に来た時と同様に、実に智也好みの内装で、大変満足だった。さっそくピカピカのキッチンで何か作ってみようかと商店街から適当に食材を買ってきた。好物の蕎麦――今日は山菜蕎麦の気分だったので適当に山菜も――を作るために。
「よし! 初めての料理だ! 俺なら簡単にできんだろ!」
 料理道具も、両親が揃えてくれていた。基本的な包丁や鍋やフライパンだけではなく、計量器具と各種食器までも、むしろ多すぎて収納に困るくらいだ。それらをこれまた適当に出して、結果的に智也が『料理』しようとして最初にした事が『キッチンを散らかす』ことだった。
「……アレ? なんか変だな……」
 ……学校の成績はオール『5』。ある教科以外。この時点でいうまでもなくそれが何なのかは察せる事だろう。次に智也は散らかし放題のキッチンで、山菜を切ることにした。その山菜もほとんどのモノが旬である秋のもので、春である今では保存食しかない。それらを水切りもせずにまな板の上にぶちまける。山菜の入っていたパックを開けるときに適当に包丁であけた穴から水が漏れて、キッチンの床はあっという間に水浸しだ。しかし、そんな事などお構いなしに、適当に山菜を切っていく。
「なんか蕎麦屋で食べるのはやけに山菜がちいせーんだよな。どうせなら大きい具で食いてぇし!」
 誰もいないのにそんなことを口走りながら、山菜はほぼそのままの大きさだ。そして本格的に蕎麦を煮る。乾燥蕎麦を水から鍋で煮ていく。水はミネラルウォーターを使うところが智也なりのこだわりポイントだ。……この時点で彼は大変な間違いを犯している。
「……早く煮えろよ。暇だし本でも読んでっか!」
 あろうことか、彼はもうすぐ沸騰するというサインである泡が出ているのに、読みかけの恋愛小説を読みにキッチンスペースを離れた。しかもその小説は長編だ。……水から煮た乾燥蕎麦は既にふやけている。そんな事などキッチンから離れた智也には知る由もない。
「あー面白かった! やっぱこの作家にハズレはねーわ! ……待てよ? 俺はなんかの途中じゃなかったか?」
 そう自ら口に出して初めて、『自分が料理中』だった事を思い出した。普通は忘れないのに、極度の……ここまで酷ければこれしかないであろう、『家庭科』嫌いである智也は頭の中から抜けていた。通常の授業では常に優秀だと評価されるのに、家庭科だけは教師の言いたい事が何なのかさえ全く理解できない始末。当然、調理実習は女子に任せっきりだった。……その結果が、現在彼の目の前にある『物体X』である。
「……自分で作っといてなんだが、『なんだこれ』? 少なくとも『蕎麦』ではねーよな?」
 物体Xは確かに食材で作ったはずだ。そのはずなのに、『食べる気』はともかく、『食べられる気』すらしないのは一体どう言うわけだろうか。更に不運な事に、山菜蕎麦の材料を買うために、警察からの『雀の涙』程度の金はほとんど消えた。
「……ツナマヨ、貰いに行くか」


 そんな出来事が入学以前にあったため、智也は極力出費を控えることにした。しかし、彼は出身地である『村』でも珍しいことに、名の知れた『散財癖』のある人間だった。しかもナルシストでもあり、俺様でもあった。……当然自分の外見には自信があるので、更にそれに磨きをかけるべく、スキンケアも怠らないし、メンズ雑誌も全て読み、流行もチェック。気に入った・自分を輝かせる服には惜しまず金をかける。
これだけの事を、田舎の『村』に棲む両親の仕送りだけで済ますなど到底無理だ。しかし、智也の選んだ大学はそれなりに名の知れた場所であったから、いくら高校でオール5でも、それは田舎の話。ついていくのが精いっぱいで、アルバイトどころではない。
 そんな生活が一か月続いた五月の、ある晴れすぎて暑い日の事だった。


「……ふぁぁ」
 欠伸をかみ殺しながらキャンバスを歩いている途中だった。有名大学ゆえに学べる学科も多く、智也は興味のある学科を優先的に選択していた。文字通り『忙殺』される日々。いや、まだたったの一ヶ月だけれども。
 そこで、セーラー服姿の美少女を見かけた。思わず「おっ」と食いつかずにはいられなかった。……目を奪われたのは、どう見ても高校生なのに『成熟した』ような身体のラインだった。特に胸から太腿にかけてのラインが理想的だ。
 その美少女の着ているセーラー服は、よく見ると『ある意味で』有名な高校のモノだった。
 ――よくあの『四方学院』の生徒がこんなところに来ようなんて思ったな。
 そんな失礼な事を思ったのは、別に悪意があるわけではない。単に智也がそういう性格なだけだ。相手の美少女は智也の視線に気づくと、ニッコリと微笑んだ。その笑顔には全く邪気がなく、身体のラインとはあまりにもアンバランスだった。目が合った以上は話しかけるのが礼儀だと思った智也は、挨拶代りに一言。
「お前、四方学院なのに、すげえイイ身体してんな! ナイスバディってお前みたいな奴の事だ!」
 どう考えても軽くセクハラだが、相手の少女も満更でもないらしく、笑みを深めた。
「そう? アンタも『予想以上に』イイ男じゃん? 安藤智也サン?」
「なんで俺の名前を知ってんだ? いくらナイスバディだからって、たかが四方学院のバカ娘が!」
 そんな斜め上の反応をしたのも、目の前の見知らぬ女子高生を喜ばせるだけだった。彼女は愉快でたまらないとでも言いたげに、その場で大笑い。キャンバスにいた他の学生が智也を白い目で見ている。「なんで四方学院のバカがここにいるんだよ?」と。
 しかし大笑いをしていても、目の前の女子高生の笑い方には『天性の』とでもいうべき『気品』が感じられる。何にしても、自分の情報だけが知られているのは面白くはない。この時代、自分のようなイケメンならばストーカーの被害も十分考えられる。女子高生は一通り笑った後、ひけらかすように智也の詳細プロフィールを語り始めた。
「安藤智也、満十八歳。十一月十一日生まれのさそり座のB型。趣味はデートと恋愛小説の読書で、特技はナンパでの話術。これまでの成功率は九十五パーセントといったところ。好物は手の込んだ料理と蕎麦類。他には出身地は……」
「ストップ! いい加減黙んねーと個人情報云々で訴えんぞ!」
 智也は内心でビビりながらも何とかそれだけは言えた。何よりも気にしている出身地までバラされてはたまったものではない。……周囲の好みの女子大生が自分に興味を持ったらしいのは嬉しいが。
「……お前、まさか『探偵』か?」
「なんでそう思うの?」
「そんなに詳しく俺の個人情報を調べられるのは警察か探偵くらいだろ? ……肝心なこと訊き忘れてたわ、お前は何者だ?」
 すると彼女は顎のあたりに右手の人差し指を当てて考え始めた。それも、かなり真剣な様子で。それが智也には理解できない。どう見てもただの『女子高生』なのだし、そう名乗ればいいだけなのに。やはり四方学院はバカしかいないのだろうか?
「……とりあえず、名前は『三ツ星さくら』。それだけは確かよ」
「……」
 とりあえず、『三ツ星さくらという名前の四方学院の生徒』という事にしておこう。そしてその四方学院は同じ都内とはいえ、かなりこの大学から離れた場所にある高校だ。それなりの用事があったのだろう。
「それで、その三ツ星さくらはここに何の用だ?」
「『依頼』をしたいのよ、正式に。一か月前の『ホームレス殺人事件』を解決したアンタなら、簡単なはずよ?」
 そう挑発するように言われてしまえば、断れないのが智也の性分だ。今も昔も。しかも『正式に』という事は、それなりの『礼』もあるとみた。探偵でもないのによりにもよって一番知られたくない『故郷』のことまで知っているとなると、かなり腕利きのプロの、『その手の職業の者』依頼するだけの金は持っているはずだ。
「二ついいか?」 「なぁに?」
「一つ。なぜ俺に依頼したいんだ? 俺は『探偵』じゃない。一介の大学生だ」
「『興味』があるのよ、あんたに。『安藤智也』ってイイ男に」
「……二つ。その『依頼』の内容は?」
 するとさくらと名乗った女子高生は「ただの腕試し程度よ」と前置きして言った。
「……『四方学院の怪奇現象』の謎を解いてほしいの」


 三ツ星さくらという美少女が『口走った』内容から解ったことは、彼女の誕生日が四月一日の満十八歳の高校三年生だということ、つまりは現時点では智也と同じ歳だということ。しかし『大学生』と『高校生』という学生の身分が違う。それと性別も。
 ……特技の話術でこれだけのことは訊き出せた。逆に言えば、特技の話術を駆使しても彼女に関してわかったことは、ただこれ『だけ』しか解らなかった。
 ――コイツ、バカそうなくせに隙がねぇな。
 てっきりバカ高校と悪名高い四方学院にもこんな生徒がいたなんて思わなかった。やはり世間は自分が思っているよりもはるかに広い


 今はさくらに案内されて、依頼された『四方学院の怪奇現象』の謎を解いている最中だ。……しかしある意味では四方学院らしいネタだった。
「……美術室か。『真夜中に人物画の表情が変わる』とかか?」
「凄い、なんで解ったの?」
「……ベタすぎてなんか泣けてきそうだわ」
 地元の小学校でも散々話題になった現象だが、どうやらトリックというかその現象の原因は『村』のものと同じ理屈だった。
 四方学院は市立高校で、大抵の生徒が『あそこにだけは行きたくない!』と十人いたら十人がそう言うであろう高校だ。学力も最低レベル、設備も古い、教師もやる気ゼロ。……まともな水準の人間ならば通うのは嫌がるだろう。
「いいか? この人物画は現代の画家が『模写』したものだ。しかもこの学校は設備に金をかけねぇし、当然質も見ての通りだ」
 そう言って智也は呆れ顔で『安っぽい』という形容が良く似合う、『模写』といっても素人でもニセモノだと断定できるレベルの『人物画』をさくらに示す。それでも彼女にはピンとこないらしい。
「それがどうかしたの?」
「……いや、ある意味凄げぇなって思っただけだ」
「ホント? あたし褒められてる!」
「いや、全く褒めてねーからな?」
 脱力しつつ、単なる『安物』を本物のように飾ってある額縁によって確かめてみる。やはり考え通りだった。
「見ての通りの贋作というのもおこがましい、小学生でもニセモノだと解る絵だ。しかもこれはガッシュ絵具が使われてる」
「……あたしは水彩絵の具しか使ったことがないけど?」
「ガッシュ絵具の特徴は『重ね塗りに適している』という点もある。油絵でも色を重ねたりするだろ? それと似たような性質があるって事だ」
「で、それがどうしたワケ?」
「……お前な、いくらなんでも頼りすぎじゃねぇの? 少しは自分で考えてみろよ」
 しばらくさくらは考え込んだのだが、せっかちな智也にとってはその時間は全くの無駄だった。……実際には三分も経っていない。
「結論から言うが、表情が変わるのは、その絵の具が少しづつ剥がれ落ちていくからだ。人物画はもちろん描いた人物の主義にもよるが、大抵は絵の具を塗り重ねていく。だから最初に描いた表情が出てくる、ってことだ。……理解できるか?」
「よくわかんないけど、解ったわ!」
 「どっちだよ!?」と、ツッコミを入れつつ、次の目的地へと向かう。実を言えばこれが一番難しいとされていた怪奇現象とやらだった。


 そして家庭科室の自動ミシンの謎、とやらに挑むところで、廊下の窓ガラスが割れる音がした。二人は階段に向かおうとしていたのだが、生徒――声の量と質から三人だと判断した――が騒いでいるのが聞こえた。
「なんだ?」
 智也がその自動ミシンの謎とやらの正体を考えている最中の出来事で、ぼんやりしている間に、さくらは素早く声のした法へと駆けていく。
「おい! 俺を置いてくな!」
 仕方がないので追いかけると、その場所には「これはこれで悪くない」と思う、さくらとは正反対のスレンダーな美少女が泣いていて、その彼女を智也的には「どうでもいい」男子二人が激しく非難しているところっだった。さくらが見知らぬと見える彼女に近づいて、「大丈夫?」と声をかける。
「おいおい、何事だよ? 寄ってたかってこんな美少女泣かすなんて、本当にお前らは男か?」
 智也のズレた指摘に、男子二人は厳しい顔で「はぁ?」と怪訝な顔をした。
 そして『割れた窓ガラス』、『落ちている野球ボール』、『壁を挟んで外と内両側に散らばるガラス』の要素から大体の状況は察した。
「ちょっと! どいつだか知んないけど、多分一年か二年よね? 女泣かす男なんてサイッテーよ!」
「そうだそうだ! もっと言ってやれさくら! 女の敵は俺の敵だ!」
 いきなり現れた明らかに年上と見える男女二人組に、男子二人はたじろぎ、泣いていた美少女はなにがなんだか解らないが、助けられたという事だけは悟ったようだった。男子はニキビが酷い野球部と見えるユニフォームを着た少年と、もう一人は日焼けした小麦色の肌の体操服の少年だ。
「一体何なんですか?」
「三ツ星先輩はある意味有名だから知ってるけど、そっちの野郎は誰だよ?」
「あぁ? なんで俺が女子ならともかく、野郎に名前を名乗らなきゃなんねーんだよ?」
 智也は故郷と同じ態度のままだった。……ゆえに、実は大学でも女性にはそれなりに人気があっても、同性からは嫌われていた。そんなことなど微塵も気にしていないが。
 そして、周りの状況から、まずは彼女が犯人ではないと断言した。予想通り、反論が入ってきたが、所詮は『四方学院』の反論だと感じた。
「そんなわけないだろ? だって外側にガラスが散らばってんだぞ? これどう考えても室内からこの女が嫌がらせのために投げたに決まってんだろ?」
「それ以外に何があるんだよ?」
 ――こんな簡単な事も知らねーのかよ。
「……流石はバカ高校と名高い四方学院だな。『ブローバック現象』も知らねぇの?」
「『ブローバック現象』?」
 さくらが初耳だとばかりに智也を見る。その智也といえば、面倒くさそうにしているが、金がかかっている以上は説明するべきだと思ったのだろう。簡単に解説した。
「外側から来たボールがガラスにぶつかったとする。しかしガラスにも『弾力』が働くから、実際に割れるのは確かにダイレクトに刺激が伝わるし、放物線が直線を描く限り、量的に『多い』のは内側に散らばる。だが、その『弾力』により外側にも散らばるんだ。……理解できるか?」
 智也以外のこの場の四人が同時に首を振った。ここで智也はため息。話が通じなさすぎる。
「……つまり、『外側にガラスが散らばっているからと言って、それが内側から割られたとは限らない』と言いたいんだよ、このバカどもが! しかもこのガラスの破片は内側の方が多い。……ゆえに結論は『ボールが投げられたのは外側から』だ。何か反論あるか?」
 そこまで言えば、男子二人の勢いが弱まった。逆に泣いていた美少女は見知らぬイケメンにうっとりした。さくらがここで男子二人を睨みつける。その視線は智也には見えない『何か』が見えている気がした。
「あんたらはどう見ても野球部よね? だったらこの時間は部活の時間。……さては、サボる口実が出来たって喜んでんじゃないの?」
 女子とはいえ、『先輩』の強い口調に男子二人は委縮した。……実のところ、女子生徒はどう考えても犯人ではないことは解るが、当事者のこの男子二人のどちらが犯人なのかは断定できない。ボールが『一人が投げるモノ』である以上、犯人は一人だ。だが、見たところふたりとも野球部員だし、二人ともボールは投げられるだろう。怪我をしているようには全く見えないのだし。
 どうしたものかと智也が悩んでいる時、さくらはニキビ顔の少年に指を突きつけて迫っていた。
「あんたが窓を割ったんでしょ?」
「……え?」
 これには智也も驚いた。あまりにもきっぱりとした断定口調。どう考えても証拠はないのに、一体どうやって絞り込んだのか?
「……どうせ、この子にフラれでもしたんでしょ? それで仕返しってトコ。違う?」
 ニキビ顔の男子は途端に弱々しい表情になり、もう一人の男子は驚いている、泣いていた美少女はさくらを見上げて「なぜそれを知ってるの?」と顔に書いてある。……智也も、なぜそれだけ具体的な情報が解るのか、不思議でしょうがない。
「おい、なんでそんな事が解るんだよ? 根拠は?」
「……『根拠』? そんなの決まってるじゃない! 『女の勘』よ!」
「はぁぁぁぁ!?」
 全く論理的とは程遠いその理屈に、好みの美少女とはいえバカにする言葉を言いかけた時に、美少女とニキビ顔の男子は同時に頭を下げた。
「その通りです! ごめんなさい!」
 ……呆気にとられる智也と、得意げなさくらは、こうして二人にとっての『初めての事件』を解決した。『事件』と呼ぶには大げさすぎるのだが。


 後日、さくらは再び智也の大学に顔を出した。ここ数日は仕送りのカップラーメンしか食べていない。そんな智也が何よりも楽しみにしていた日だ。
「あの時はありがとね! さっすがぁ、イケメンは違うわ!」
 そう言って彼女が差し出してきたのは、予想より遥かに分厚い茶封筒だった。警察の雀の涙の金額とはケタが違うのではないだろうか?
「……お前、本当に何者なんだよ?」
「あたしに興味があるの? やったわ! でもしばらくはナイショよ。ミステリアスな女の方が好きでしょ?」
 そう言ってさくらは笑う。得体が知れないが、ルックスは智也の好みの範囲内だし、女に好かれて困る事など一つもない。そう思った智也は満更でもない気持ちで呟いた。
「……女の勘って、スゲ―んだな」

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2015年 5月17日 莊野りず


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