●● レンアイオムニバスーSideG --- 2,生憎と普通の女じゃないの ●●
「あのっ!瑠璃子さん、俺と……付き合ってください!」
彼はそう言って、薔薇の花束を手渡す。あたしももう大学生だし、こういう事も結構よくある事。それでもこれはないわーって思う。……今時、薔薇の花束なんて寒いし重い。
このあたしに、たかが『花束だけ』というところが、いかに駄目で、モテない男丸出しかを解ってない。
「あたしはね、生憎と普通の女じゃないの!」
受け取った花束を地面のアスファルトに叩きつける。名前も知らない彼はがっくりと肩を落とした。
「瑠璃子さ~ん! 昨日の合コンはどうでしたぁ~?」
後輩たちには別のサークルの飲み会で、また一つ、出会いがあったらしい。けど、そんなちゃちな集まりで満足するようなあたしじゃない。
「ふ~ん。で、イイ男はいたの? ……様子を見るにあまりいい結果ではなかったみたいだけど?」
「も~っ! 瑠璃子さんのイジワルぅ!」
後輩だって可愛いと思う。必死に流行の雑誌を買いこんで、モテるための情報はインプットしてる。一生懸命に働いたバイト代で、少し背伸びしたブランドのバッグを持っているのも微笑ましい、とは思う。
しかし、それだけ努力してもモテないのが彼女たちの現実。少し哀れにも思えて、あたしは次の合コンに彼女たちを誘った。もちろんあたし自身にもメリットがある舞台に。
「えー義雄さんの趣味って変わってるぅ! もっと教えてくださいよぉ~?」
あたしが企画した合コンは、ハイレベルな男女ばかりを集めてある。後輩のためもあるし、あたしがイイ男をゲットできてもオイシイじゃない?
あたしは甘いカクテルで喉を濡らしながら、興味もない男どもの話に耳を傾ける。ここは大衆居酒屋だし、ここいらであたしの美声を披露してもいい頃合だ。
「らん~♪」
あたしの歌声に、後輩たちと話し込んでいた男どもが、あたしの方を向く。むしろ痛いほどの視線を浴びながら、あたしは流行の歌を口ずさむ。すると、後輩たちの方を眺めていた男たちすらも、あたしに釘づけになる。
――悪いわね。
後輩たちもこんな展開には慣れている。それでも肩を落とさずにはいられないらしい。
あたしは皆に見つめられていると思っていた。だが、ただ一人。一人だけ、携帯ゲームに夢中で、あたしに気づかない男がいる。ご丁寧にイヤホンまでつけて。
――なんでこんなところにヲタがいるのかしら?
あたしはマイクを強く握りしめる。いよいよこの曲もサビが終わる。それでも、あの男は、あたしの事など目に入らないようだった。
……合コンで、こんな不愉快な思いをしたのは初めてだ。鳴んなのあの男? バカなの? 死ぬの?
「ねぇ、それって面白いの?」
あたしがゲームに夢中になっているヲタのところに行くと、周りは意外そうな顔をする。確かにヲタは守備範囲外。……あたしに興味を持たない男は許せなかった。
――こんな男くらいあたしの手にかかれば!
「……」
折角あたしが話しかけているというのに、この無礼な男はゲーム画面に夢中だ。乱暴にイヤホンを抜いてやる。
「あっ! 何すんだよ!」
思ったよりいい声。
「あなたがあたしの質問に答えないからよ?」
フンと鼻を鳴らすと、この男はため息をつく。
――なによ、そんなにあたしより、ゲームの方が大事なワケ?
「……何なんだよ、お前は? 仕事の邪魔すんな」
まるで犬にでもするように、「しっしっ」という仕草をやられて、流石にカチンときた。……ん? 仕事?
「えっ、仕事?」
ゲームのどこが仕事なのか。疑問に思っていると、彼はうっとおしそうに答える。
「ゲームのテストプレイ。……バグがないかとかチェックするんだよ。だからジャマすんな!」
「そんな仕事なんてあったんだ……」
あたしはゲームなんてやった事がない。この男に対する『ただのヲタ』、というあたしの印象は変わっていった。
「あなたの名前は?」
「……宮本俊」
ぶっきらぼうな対応が、逆に新鮮だ。興味を惹かれて、あたしはゲーム画面をのぞき込む。どこかで見たようなキャラクターが走っている。
……操作の仕方が解らないけど、今度買ってみようかな。……って、何あたしの方から構ってるの?
「俺、あんたの事はただの女王様かと思ってた。ゲームに興味持つあたり、意外と可愛いところがあるのかもな」
彼は相変わらず、画面から目を離さない。けどその声音は、昭かにあたしに興味を持っている。
「意外と、は余計よ!」
次の瞬間には互いに笑い合っていた。
あたしは女王様。全ての男があたしにひれ伏す。でも一人くらい、あたしの魅力に参らない男がいてもいい。
そんな事を考えつつ、あたしはカクテルを飲みながら、俊の話に耳を傾けた。
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