銃とロケット
19,最後の戦い
「クリスティーヌ、お前はどうしても戦うというのだな?」
父は少し哀愁のようなものが見える。
「中間管理職のあなたには他愛もない問題かもしれないけれど、私はエリスを喪った。それだけで戦う理由は十分よ!」
たまに反発した育ての親。それがどれだけ尊いものなのかを今更になって知る。
「……いいだろう。思わぬ副産物もあるかもしれない。行きなさい!」
そう指示を出されて飛び出したのはまだ年若いクリスティーヌと同い年の少年。彼は銃の扱いに特化して長けているタイプの様で、クリスティーヌもまともに当てられない
「ヨユーだね、おねえさん!こんくらい火つけりゃあ……」
「危ないじゃないの!」
クリスティーヌの怒号に、赤星渡は縮み上がった。
――これが最後になると思う。
あの日通された客間でそんな事を春樹が言った。
『なぜ?』
当然のように口を挟んだのはエリスで、クリスティーヌ自身はただアフタヌーンティーを楽しんでいた。クリスティーヌは運動神経は特筆すべき特技がいくつもあるが、頭脳面では頼りない。実際にパソコンの操作も解らない。
あの時の春樹は真剣な顔をしていたとおぼろげな記憶を確かに思い出す。それで視界は開けたようなものだった。この感情を何と呼ぶかはクリスティーヌは知らない。
渡は本物の銃と改造モデルガンでガンガン攻めてきた。これでは防戦一方だ。研究所にあったテーブルを盾代わりにするも、生憎機能しない。春樹はさっきから悪態ばかりついている。
今度投げ込まれたのはスタングレネードだ。
「危ない!」
気づけばクリスティーヌは春樹に抱えられていた。肩の上にコメでも乗せるかのように。恥ずかしいので制止しようとしてもタイミングがつかめない。
こちらの気を遣っているのかは知らないが、今は攻撃をしてこない。エリスの今際の言葉が蘇る。
――ハルキ君にならクリスを任せてもいいわ。
そんな幸せな記憶がクリスティーヌの胸を打つ。
考えてみれば当然だった。春樹に妹がいないなどとなぜ思い込んでいたのだろう。日本初のクライ病患者としても、彼女は有名だった。
新体操日本新記録。
それはスパイでなくとも知っている情報だった。
「ほら、ごちゃごちゃしてると撃っちゃうぞ!」
赤星渡は心底殺し合いを楽しむ目で挑発する。クリスティーヌも春樹も乗らなかった。無限大の嫌悪感をあらわに銃を撃ち続けた。
弾倉が足りなくなった後で、二人はクリスティーヌの父親と赤星渡を始末したのだと気づいた。
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