銃とロケット
18,得るもの、失うもの
「エリスぅぅぅぅ……!」
クリスティーヌは横たえたエリスにただ謝ることしか出来ない。
あんなに一緒だったのに。
あんなに一生懸命に育ててくれたのに。
あんなに……友達だったのに。
父親は無情に銃口を春樹へと向けている。
「……させない」
クリスティーヌが春樹の目の前に立つ。威嚇のつもりを解ってくれたのか、父は銃を下した。その事にホッとする。
「お前は大事な商品だからな。傷をつけるわけにはいかん」
この言葉で父は自分をただの輸血用・代替品だと理解した。ここにいるのは闇への入り口を踏み込んだ者たちだけだ。
唯一の味方であるエリスがもう虫の息で、春樹も不確定要素しか残っていない。クリスティーヌにとってこの状況は最悪だった。
意識が飛んでいたエリスが目を開けた。
「ク、リス?」
「エリスッ!」
クリスティーヌは瞳に涙をためたままだ。それを拭うような心の余裕もない。
「あまりの、痛みで……気絶しちゃった、みたい」
「喋らないで。ここには手当の道具もある!」
しかしそれはただの痛みの引き伸ばしでしかない。それをクリスティーヌ自身も知っている。だが言わずにはいられなかった。
「いい、のよ? 貴女には……ハルキ君、も出来たから」
声がだいぶかすれてきている。最期の時は近いと直感では解っているものの、納得などできそうにない。
「春樹は……そんなんじゃない」
「ふふっ……こうしてみると、私たち、って、友達、みたいね?」
「友達であり、育て親よ。もちろん自慢の。だから、生きることをあきらめないで……」
クリスティーヌの必死の説得も死期を感じているエリスには無駄だった。
「私、幸せだったから。貴女、みたいな娘を持てて、貴女みたいな友達がいて……」
「お願い、黙って!」
「だから私は、幸せのまま逝けて幸せ。……ごめんね、クリス」
「エリス? ちょっとエリス? エリスってば?!」
エリスの身体がだんだん冷たくなっていく。今まであったはずの生命の温かさがない。春樹は脈を測り瞳孔を見ると首を左右に振った。
「……そんな」
エリスが死ななくてはいけない理由などない。そんなのは理不尽だ。クリスティーヌは愛用のベレッタに弾を詰めた。
クリスティーヌと春樹はそれぞれ銃を構えている。対して、相手は銃が一丁。これでは有利過ぎる。
「……このロケットにはIOHの日本支部、小さいがこの国にもあるんだが、そこの特殊扉を開く鍵なんだ」
クリスの父はいきなりそんなことを言いだした。何が言いたいのかさっぱりだ。
「クリスティーヌ。お前のロケットと私のロケットを台座に差し込むことで扉が開くようになっている。その扉の奥の薬を飲み続ければ、お前でも……」
その次の言葉はクリスティーヌが引きついだ。
「……長生きできるってわけね」
得るものは短命の特効薬。
失うもの――エリスを既に亡くしている。
どちらに転んでもクリスティーヌの人生は大して変わらない。ただ『クリス』と愛称で呼んでくれるものがいなくなったことは痛いことだった。
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