銃とロケット

15,絶望

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「なぁ、アンタ。本宮春樹が隠してる秘密を知りたくはないか?」
 あれから一時間。狂ったように笑う渡の目には正気が感じられない。
 春樹の秘密。
 どうせ大したものではないのだろう。この日はこんな少女とデートしたとか、今夜はモテたとか、そんなくだらない事。
「……クライ病」
 その一言で反応してしまう自分を嫌悪する。
「クライ病? それがどうしたの?」
渡の目に更に深い狂気が混じった。
そして彼は語り始める。


 クライ病は全くもって不可解な病。  突然発症し、散々苦しみながら死んでいく。その苦しみは想像を絶するものらしい。治療薬は今も開発されていたい。研究しても雲を手に掴むような話で、全くプロジェクトは進まない。
 そこである研究者がある事を思いついた。
『クライ病は遺伝など関係する要素などない。ならば――」
『私たちの子を提供します! それでクライ病が止まるなら、あの子も喜ぶでしょう」
 夫婦そろって研究者だった。そして子供を『実験材料』にしか見られない夫婦だった。
 やがてその夫婦にも子供が授かる。クライ病の特効薬を妊娠中から与え続けた、生きた特効薬。


「……それが、私、だっていうの?」
「そういうことだね。まぁ俺もアンタも親は選べないしな」
 この男は元々狂っているとして、クリスティーヌの両親が狂っていたなど思いたくもない。
「本宮春樹はきっとこのことを知ってると思うよ」
 春樹が気を遣ってくれたのは嬉しいが、この男相手には話せて自分には話せないなど許しがたい。今度春樹に会った時にはおもいっきり嫌味を言ってやろう。
 それっきり独房を離れた。独房で聞いた話を春樹に詰め寄ると、彼はあっさり認めた。
「ああ、そうだよ。……言えるわけないじゃないか」
 春樹の表情は苦しげだ。
「じゃあその施設に行ってみましょ。それが確定したわけじゃないんだから」
 エリスの提案に、二人が頷いた。


 その施設は日本平和保護期間東京支部からそう遠くないところになった。ほとんどが日本人だが、少ないながらも外国人が頑張っている様子も見受けられる。
 施設には不気味な大きさのガラスケースや水槽などがあり、人工培養を連想させた。
「……ここはどんな場所なの?」
 クリスティーヌが二人に訊いても、答えはない。見ているだけでも狂いそうな、そんなイカレた場所だった。よく解らない装置の示す数字に神経質に反応する者もいる。
 その最奥の所長室に足を踏み入れた途端、クリスティーヌの本能の警鐘が鳴った。
「……おや。お前を作り出すのには苦労したのだぞ? あの女はお前に情が移ったようだが」
 所長室にいたのは、クリスティーヌの持つ銀のロケットと対になるようにデザインされた金のロケットを身に着けた中年の男だった。
「……待っていたよ。わが娘よ」
 男の後ろで出番を待つ、用途が嫌でも解ってしまう器具に、クリスティーヌは絶望した。
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