銃とロケット
14,一瞬の隙
一瞬で間を詰めて部屋に入ってきたのは、肉体的にはまだ未成熟の若者だった。細長い手足、肉付きの薄い身体はそれだけで貧弱な体格だと脱いだ身体を見なくても解る。
「僕は赤星渡。お前に兄さんを殺された、赤星満の弟だ!」 「……赤星、だと?」
クリスの問題でごちゃついていた頭が、急にクリアになる。
――くそっ! どうなってるんだよ! あの、赤星の生き残りだと?
春樹の頭には死体と化した赤星満の顔しか残っていない。
「そうさ、アンタがあの時殺した、赤星満だよ! 覚えてるんだろ?」
あの時は新人で、将来有望と言われていた若者を一人殺してしまったことがあった。それでも上司は『立派に任務を果たした』と褒めてくれた。
当時の春樹にはそれが不思議でならなかった。
――なんで俺は人ひとり殺したのにおとがめがないんだ?
いっそ責めてくれた方がよかったのに。
渡は考え込む春樹の動きの鈍さも当たり前のように計算づくだった。
「ははっ!アンタ隙だらけじゃねーか!」
春樹が隙だらけなのはクリスティーヌとエリスを庇っているからだ。所属している組織の違う二人は下手に攻撃できない。
――なにか、隙はないの? 一瞬でいいから……。
クリスティーヌの願いは届けられた。
春樹がテーブル下に匿ってくれたことで、そこで武器を見つけた。彼のマグナムだ。
「……」
狙いは逸れてもいい。ただ春樹ばかり集中砲火を受けるのはクリスティーヌには納得できない。
クリスティーヌは春樹のマグナムを抱くように握りしめるとテーブルの下から飛び出した。それはまさしくクリスの思い描いていた一瞬の隙だった。
「何言ってるのかはよく解らないけど、アンタは敵って事よね!」
クリスティーヌの放った弾は狙いを逸れて、照明へと当った。ガラスの欠片が降りかかってくる。その真下にいたのは春樹と渡。
春樹は上手い事避けたが、渡はそうでもない。ちょうど目に入ったらしく、呻いている。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!」
地を這うような低温の声がその場で響く。クリスティーヌはそっと気配を窺っていたが、敵を無力化したとみて春樹の傍に寄った。
「……どうするの? 生かす? 殺す?」
彼の服についている身分証にはちゃんと『日本平和維持企画関西支部』のマークがあった。仲間割れは居心地が悪い。渡のダメージは主に目だった。他は何も変わりはない。
とりあえず全員生きていることを三人は喜び合った。
暗くて湿っぽい、地下牢の中で、クリスティーヌは密かに渡と会っていた。
「……そろそろ来るころだと思ってた」
独房の中の赤星渡は暴れたりはしなかった。それは助かるが、こちらの質問には答えてもらいたい。
「なぜ春樹を狙った?」
そう尋ねると、渡はクックと笑う。五分待ってもそれは止まらない。
「いいかげんにして! 私だって暇じゃないの」
まだ余裕を見せるクリスティーヌに、赤星渡は信じられないことを囁くのだった。
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