銃とロケット

13,好敵手

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 対面したのは日本平和維持機関の客間。
 はじめて出会った時と変わらない、いや、少し頬がこけたように見えるクリスティーヌの表情は硬い。対して、初めて見るクリスティーヌの隣の女性は柔らかな笑みを浮かべている。
「久しぶり……でもないか? クリスちゃんから俺に会いに来てくれるなんて嬉しいよ」
 春樹はぎこちない笑みを浮かべながら棚の缶を見比べた。
「ヨーロッパの方の人なら紅茶の方がいいだろう? 色々揃えてあるが、何がいい?」
 クリスティーヌは黙りきりで、代わりに隣の女性が数秒悩んだ後に応える。
「そうね、アールグレイはある?」
「ありますよ」
「じゃあそれをもらいましょうか。クリスも同じでいいわよね?」
 クリスティーヌは黙ったまま頷いた。


 赤星渡は日本平和維持機関東京支部を訪ねた。
 同じ組織の人間だからか、全く警戒はされてない。身分証を見せるとあっさり通してくれた。その事には拍子抜けした。
目的はもちろん本宮春樹だ。兄の仇打ちという大義名分があるために渡の未発達な精神は幼さが残っている。それゆえの残虐性も余りあるほど。
「……待て」
 ゲート前で、渡は呼び止められた。不審な事などないはずなのに、半ば見せしめのように呼び止められるのが気に障る。
「……何か?」
「日本では銃火器の使用は厳禁だ。知っているだろう?」
 それは日本人なら誰もが知っている常識だ。しかし渡にはそんなものは通用しない。彼はむしゃくしゃして見張りに改造エアガンをお見舞いした。


「……それは苦労したな、クリスちゃんも」
 いつもはコーヒー派の春樹も紅茶を美味しそうに口元に運ぶ二人に調子を合わせる。
 クリスティーヌは意外とこの男は空気が読めるのだと感心する。
 今まであったことを話したら、春樹は心底同情するように同調した。もちろんあの時言った通り、機密の類は一切漏らしていない。
「私はともかく、クリスがね」
 エリスはストレートの紅茶を一気に煽る。こう見えてエリスはかなりの酒豪だ。その勢いで飲んでいるとあっという間にカップの中の紅茶は空になった。
「それほど苦労したってわけでもないけれどね」
 これほど早く再会することになるとは思ってもいなかった春樹の前では、つい強気になってしまう。春樹はそんなクリスティーヌの顔を何か含みがあるように見つめる。
 その時の事だった。日本平和維持機関の警報がけたたましく鳴り響いたのは。
「何だ?」
 真っ先に反応したのは春樹で、クリスティーヌは愛用のベレッタを構える。もちろん彼女は日本の銃刀法のことは知らない。
 応接間のドアを乱暴に蹴り開けたのは、三人の見たことのない若い男。胸元には白い花を抱えている。
「……死ね!本宮春樹!」
 好敵手としてではなく、ただ一方的に攻められるような覚えは春樹にはなかった。彼はクリスティーヌとエリスを庇って、テーブルの下へもぐりこむ。その次の瞬間には大量の弾が三人を襲った。テーブルを盾代わりにしていたおかげで怪我はなかった。
「……僕の名を覚えているか? 赤星渡。お前に兄さんを殺された、赤星渡だ!」
 好敵手……なんて生易しいものではない。むき出しの敵意に、春樹は銃を持つ手が震えた。
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