銃とロケット

10,手向けの花

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 日本の横浜には組織の基地があった。白い墓が並び、降る雪がその光景に更に白色を増やしている。一見すると違いのない墓だが、よく見ると微妙な違いがある。
 そんな白一色の風景の中に紅い影があった。
 百六十と少しくらいの小柄な身長に、冬でも綿のパーカーを羽織っただけの格好。女性と間違われそうなほどの細い身体にジーンズを纏っている。
 男の名は赤星渡。
 日本平和維持機関関西支部の年若いエースである。
 その彼がなぜこんな場所にいるかというと……。
「……兄さん、これが僕の手向けだよ」
 赤星満と彫り込まれた白い墓に、彼は手向けの花を供えた。


 エリスとクリスティーヌを乗せた飛行機はトラブルがあり到着が大幅に遅れた。予定よりだいぶ遅くなったが、クリスティーヌとしては救われた気分だ。
 もし春樹との再会が待っていたとしても、もう少し時間が欲しかった。
 日本平和維持機関の事もろくに知らないので尚更だ。エリスなら知っているかと思っていたのに、彼女の答えは意外な事に「知らない」だった。
「だって本当に聞いたことがないのよ。そもそもうちの機関とは関わりもないし……」
「日本なんて彼と会わなければ一度も来ることなんてなかっただろうしね」
 記憶の中の春樹の顔はすでに霞んでいる。あれから色んなことがあったし、思い出す暇もなかった。
「本当に……色々あったわね」
 エリスが温かい飲み物を差し出してきた。空港の自販機で買ったものだ。
「ありがとう」
 中身はホットチョコレートで、冷めた身体を温めてくれた。パソコンで調べ物をしていたらしいエリスに何か情報が入ったらしい。
「クリス、これを見て!」
 パソコンのモニターを覗き込むと、そこには日本平和維持機関と表示されていた。
「これは……春樹が言っていた組織?」
 てっきり春樹の妄想かと思っていた。
 エリスが聞いたことのない組織などマイナーにもほどがある。それとも日本というのはそんなに小さい国なのだろうか。それをエリスに訊いてみると同調するようなことを言った。
「飛行機の中から見ても小さい国だものね。ヨーロッパとは違うわ」
 彼女の話によると人口も少ないそうだ。最近は増加傾向にあるらしいが。
「それと、例のハルキ君の事も少し解ったわ」
 それが目的よね、とエリスがウィンクする。
「別に」
 口から出るのはそれだけだが、伊達に長い付き合いのエリスではない。
「ハルキ君は東京支部に来ているそうよ。普段は地方勤務ですって。齢は貴女より三つ上ね」
 そこまで詳細なデータが出るものなのだろうか。一応秘密機関ではないのか。
「日本のこういう機関は結構オープンみたいだわ。元々治安が良くて平和だからかしら?」
 エリスも今までに味わったことのない国民性に戸惑っているようだ。クリスティーヌがホットチョコレートを飲み終えるのを待っていたらしく、エリスは席を立った。
「それじゃ、行きましょうか」
 どこへ? など聞かなくても解る。春樹のいる日本平和維持機関東京支部に向かう気だ。こうなったらエリスは止まらない。
 クリスティーヌはゆっくり席を立ち、エリスの後について行った。
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