銃とロケット
7,冷えていく
ジョーンズの事件から三日が過ぎた。
クリスティーヌは自ら軟禁されることを選んだ。下手をすれば、エリスに迷惑がかかってしまう。それを避けるためだ。
ただでさえ、この組織では技術者は不足しがちな人材だった。それゆえにジョーンズを殺したという事実を突きつけられてしまえば逃れられない。……いくら自分の身を護るための行為だとしても、たかが戦士と技術者では、命の重みは断然技術者のものの方が重い。
エリスはクリスティーヌの無実を信じてくれたが、他の者は疑いのまなざしで彼女を見た。組織内での立場が冷えていくのを感じる。
結局のところ、ジョーンズは即死だった。
凶器はクリスティーヌの持つバレッタの弾だと判明した。これは決定的だ。
流石のエリスもこれ以上クリスティーヌをかばう事が出来ない。クリスティーヌ自身も自分がやってしまったのだと思っている。
記憶がない、なんて理由にもならない。
これからどうしようと悩み続ける日々が続いた。自分から申し出ての軟禁なので待遇も良く、三食の食事とジャンルはバラバラだが読書も許された。エリスは毎日面会に来てくれたが、その顔には疲労の色が滲んでいる。ジョーンズとはいい仕事仲間だったのだろう。
面会の間は難しいながらも作り笑いをした。これも一週間が限界だった。
他の誰でもないクリスティーヌが良心の呵責に苦しんだのだ。
夜になると決まってあの時の事を振り返る。記憶にはノイズがかかっていて鮮明な記憶は一つもない。
「……ジョーンズはエリスを狙っていたのよね」
あの時、確かにそんな事を言っていた。
彼女は優秀な技術者だという事は長い間近くにいたから知っている。組織の装備のいくつかも彼女が開発したものだ。
アカデミーでラボは様々なセクションに分けて研究を行っていると習った。エリスの専門は武器、補助器具、サポートアイテム。通常は三人以上でラボにこもると決まっている。しかしエリスは優秀すぎて研究に付き合える人材はそうはいないと聞いている。
ジョーンズは貴重なエリスのパートナーだった。エリスもジョーンズの事を認めているようだった。
では逆はどうだろう。
ジョーンズがエリスを邪魔に思って殺そうとしたとしたら。その邪魔になるクリスティーヌを先に殺そうとした。そこまで考えてクリスティーヌは首を振った。
……そんな事、まるでミステリじゃないか。
ありえないと早々とベッドに横になった。
翌日。
十分早起きなはずなのに、クリスティーヌは午前三時に起こされた。
「立て」
見張りの男が低い声で言った。
「どういう事?」
ここは独房ではない、軟禁用の小部屋だ。彼が命令できるのはあくまで罪があるものだけだ。
「いいから起きろ。お前の罪が決まった」
その言葉で背筋が凍りつく。
「……まさか、処分?」
処分とは組織の規律を破った者や罪を犯したものなどを薬などの人体実験にし、その後言葉にできないほどの残酷な方法でこの世から消すという事だ。
「エリスがお前の罪を認めた。ゆえにお前は処分が決定した」
低い声の棒読みはクリスティーヌの身体をゆっくりと冷えさせた。寒い時期ゆえ、その寒いという実感は幼いあの日を思い起こさせるには十分すぎた。
「まるで……悪い夢」
そんなクリスティーヌの呟きは、彼には聴こえなかっただろう。
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