Blue

モドル | ススム | モクジ

  二三章  

「……」

 スフィアは高校の帰り道、モヤモヤした気分で、ただ機械的に手足を動かして歩いていた。
 麒麟の父・悟に言われたことが頭から離れない。麒麟が自分に対して恋をしている、などと、少し前の彼女ならばすぐに「片腹痛い」と言っていただろう。……しかし、麒麟の目がどこか以前よりも変わった気がする。具体的にどこがどう、とは指摘できないのだが。

 ――馬鹿な。この私が、あんな子供などに……。

「……」

 気が付いたら、歩く速度が上がっていて、気づかないうちに息が切れていた。そしてまた考え込む。

 ――まぁ、朱に似ているからだろう。

 そうでなければ、誰があんな軟弱を絵に描いたような子供が気になるのだろうか。しかし、やはり気持ちが落ち着かない。こんな事は朱と過ごした日々の中でも、少ししか思い出せない。

 ――だから! 朱は私の庇護など必要ない麒麟児だろう? この時代の『麒麟』という名の少年とは無関係だ!

 自問自答してもらちが明かない。だが、やはり根が真面目な性格ゆえに、一度考え出すと止まらない。

「……」

 ――こういう時は『剣道』とかいう武道が一番だ。『シンギタイ』とかいうのが今の私には著しく欠けているようだしな。


 ……そういったわけで、スフィアは今まで歩いてきた道を引き返し、高校の剣道部――一番実践的で興味を持った――の道場へ急ぐ。防具は敢えてつけずにいるが、それは実戦で生かすためにわざとしている事であり、顧問の教師からは再三注意されているが、改めるつもりはない。
 そうして竹刀を握ると一気に精神が安定し、集中する事が出来た。

 ――やはり武道はいい。この澄み切った空気はどうだ? 心が洗われる。

 そんな事を考えながら竹刀を振るっていると、見方を教わった壁時計が午後六時を告げていた。

「しまった! 夕餉の時刻だ!」

 そうして慌てて後片付けをし、道場を後にした。いや、しようとした時だった。朱の形見の勾玉が光を放ったのだ。しかもその光り方は、これまでにない強烈なもの。

 ――まさか、碧玉京に異変が!?

 そんな嫌な予感を覚えたまま、スフィアは故郷へとタイムトラベルしたのだった。

__________________
2015年 8月3日 莊野りず
モドル | ススム | モクジ
Copyright (c) 2023 rizu_souya All rights reserved.
 

-Powered by 小説HTMLの小人さん-