666文字百物語

モドル | ススム | モクジ

  29、僕の家の日曜朝の光景   

 こんにちは! わたしは魔法少女だよ! 街の平和とみんなのことを守るため、身を粉にして働きます! みんな、よろしくね!
 姉ちゃんと一緒に見ている魔法少女もののアニメは、大体こんな感じだ、どれも。姉ちゃんは母ちゃんに買ってもらった、魔法のスティックとやらを振り回しながら、ハイテンションにテレビ画面に手を振っている。
 僕はそんな姉ちゃんを見て、なんで変身もの、しかも魔法という得意技が使えるのは女児向けばかりなのだろうと思う。男だって変身ものはあるけど、○○戦隊とかで、いまいちだ。僕はひとりで戦う魔法少女ものの方が好みだ。
「○○君ったら、まだそんなアニメなんか見てるの? 日曜の朝なのに――」
 母ちゃんは姉ちゃんと並んでテレビを見る僕を白い眼で見る。……だってしょうがないじゃないか。姉ちゃんが見たいっていうんだから。弟としては姉に逆らえないじゃん?
「だいたい、これはもう飽きたでしょ? いったい何回同じような展開なのよ」
 なんだ、ちゃっかり見てるんじゃないか。僕の隣では、ずっと姉ちゃんが変身スティックを振り回している。僕の頭に当たって痛いというのに、姉ちゃんは気にしない。
「そういえばこの番組って、○○ちゃんが好きだったわよね。あんたもお姉ちゃんのことを忘れられないのね」
 何言ってるんだよ母ちゃん。姉ちゃんならこうして、僕の隣でテレビを見てるじゃないか。スティックを振り回しながらさ。ね、姉ちゃん――
「ママはわたしのことが見えないんだね。あんただけだよ、わたしが見えるのは」
 リビングの片隅に、そういえばだれのものか知らない遺影があったけど、アレは誰のものだろう? 姉ちゃんに似てる気がするけど、気のせいだよね。
 僕は再び姉ちゃんと一緒に魔法少女アニメを見るのだった。
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