666文字百物語
28、黒髪フェチ
俺は、黒髪の女が好きだ。長さは長ければ長いほどいい。男じゃ伸ばすわけにはいかないからな。特に俺のような職種では。
仕事中にたまに見かける女は、まさしく俺の理想だった。俺にとって女の価値というのは、髪で決まる。どんなに美人といわれるような顔立ちだったとしても、髪が痛んでいれば、即、パスだ。髪は女の命。その命ともいえる、日本人独特の黒髪を染めてしまう昨今の流行には辟易している。
その女は、たぶん学生だ。つやつやの、さらさらのストレートのロング。触れたらきっと、絹のような手触りなのだろう。天使の輪と呼ばれるような艶が見事だ。俺はこれほどまでに完璧に俺好みの女を知らない。久しぶりに胸が高まる。これは……きっと恋だ、愛だ! 俺はあの女を愛しているんだ!
そして女を呼び留めた。彼女は最初こそきょとんとしていたが、その黒髪は綺麗だと褒めると、嬉しそうにはにかんだ。
「あまりにもきれいだから声をかけたんだ。ちょっと触らせてもらえないか?」
「……え? おじさんケイサツカンなのに、ろりこんなの?」
女――少女は素早くランドセルから防犯ベルを取り出した。
まったく、世の中の企業もろくなものを作らない。おかげで合法的に少女に近づける警察官になったというのに。あぁ、なんと嘆かわしいことか。
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