666文字百物語
26、美しいは絶対!
私は美少女だ。
街を歩けば、「君かわいいね、デートしない?」なんてウザいナンパはいつものこと。
買い物に行けば、「うちの嫁になって欲しいもんだよ」なんて友達のお母さんに口説かれる。
でもね、誰一人として自分の言葉で口説いて来るような奴はいないの。まったく、どいつもこいつも意気地なし。そっちが「どうしても」っていうのなら、私だって考えないわけじゃないのに。
美人って、かわいいって、罪かしら?
ううん、そんなことはない。昔から美人は迫害されるもの、嫉妬されるもの、妬まれるもの。その逆境を跳ね返してこそ、本当の美人に、お姫様になる資格を得るのだ。
だから私は毎日のメイクも怠らない。しっかりつけまをつけて、しっかりマスカラを塗って、ビューラーでカールさせる。これだけで、まだ十代の私は十分美人になれる。チークもブラシで軽く塗って、眉も整えて、もう完璧。どこからどう見ても、私は美人、もしくは美少女だ。
「ねぇ、私、キレイ?」
「キレイよ、誰よりも」
パパもママも、私に見惚れてる。でもね、たまにとてもかわいそうなものを見る眼で私を見るの。なぜ? なぜそんな顔をするの?
「ねぇあなた。あの子にもそろそろ本当のことを話した方がいいんじゃないかしら?」
「本当は美少女どころか普通レベルでもないって? うちが金持ちだから誰もがすり寄ってくるだけだって? ……そんな残酷なことが言えるものか!」
知らない方が幸せなこと。それは彼女の美の基準がおかしいこと。両親はあまりにも醜い我が子の夢を壊したくなくて、今日も残酷な嘘を重ねてゆくのだった。
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