666文字百物語

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  25、弟派   

「君が好きすぎて、どうにかなってしまいそうだよ。……そうだ、今度は僕の部屋に来ないかい? 君好みに模様替えしたんだ」
 えぇ、あたしも好きよ。貴方のこと愛してるわ。だって本命だもの。でもね、部屋ってなによ? あたし好みに模様替えって、あたしが貴方をあたし色に染めたみたいじゃないの。照れるわ。
「あなたのような女性は初めてだ。夜も眠れないくらいに気になって、気になって、もう眠れないよ……」
 だったらあたしが添い寝してあげるわ。こう見えてもね、お守りは得意なの。弟の世話をしてきたもの、ずっとね。同じ弟系ならほっとけないじゃない。まったく、あたしもこういうタイプには甘いのよね。
「俺は好きだって言ってるんだ! さっさとおまえも言ってくれよ! 好きだってさ。俺のことが一番好きだって!」
 強引な男も嫌いじゃないわ。でもどうせなら「愛してる」の一言が欲しいの。あたしは自分がこの世で一番愛されてなきゃ嫌なの。あたしがこの世で一番いい女だって言われたいの。綺麗だって、かわいいって、素敵だって言ってくれなきゃ嫌なの。


「お姉ちゃんって、綺麗でもかわいくもないけどさ、優しくて料理上手なところは素敵だと思うよ。……だから大きくなったら僕がお嫁にもらってあげる!」
 鏡をのぞいてはため息をついていた時、いつも励ましてくれた弟はもういない。あたしが喧嘩のつもりで殴ったら死んでしまった。両親も事故で死んでいて、あたしと弟はふたりきりの肉親だったのに。
 弟だけがあたしを求めてくれたし、愛してくれた。だから、あたしは弟の影を探し求めている。
 やっと見つけた弟好きには神ゲーだという『ブラザープリンス』という乙女ゲーも、結局は完璧な弟はいなかった。あたしはずっと、弟を取り戻すためにゲームをプレイする。いつか見つかるはずだ、あの子のような、シスコンな弟が。
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