666文字百物語
18、魔性のペット
一目惚れだった。
別に男の話をしているわけじゃない。もっと別の、カワイイものの話だ。
ティーカッププードル。その名の通り、ティーカップに収まってしまうくらい小さい犬のことだ。
初めて見たのは、同僚が職場にこっそり連れてきたのを見た時。これはもうカワイイ! って要素をすべて詰め込んだような生き物で、あたしたちの立場がなくなりそう。でも、そんなのも気にならないくらい、その子犬はかわいくて、同僚が自慢気に見せて廻っているのを見て、あたしも猛烈に欲しくなったのだ。悪いのはあたしじゃない。自慢気に見せびらかす、あの子が悪いんだ。
元は犬より猫の方がカワイイって思ってたけど、このミニマムサイズの猫がいるなんて話は聞いたことがない。小さい、は、カワイイんだ。ロリコンだって、小さいから幼女が好きなんでしょ? それと同じ理屈よ。
でも、あたしはお金がなくて、どうやってあのカワイイティーカッププードルちゃんをお迎えしようか、足りない頭で考えた。
あたしはこう見えて趣味が多いから、出費も毎月多い。
スキルアップも目指したいし、読書もしたい。お芝居も好きだ。こりゃ、仕事を増やすしかないね。
「……それで、過労死ですか? たかが犬を飼う金を貯めるためだけに?」
現場に駆け付けた警察官は怪訝な顔を隠そうともしなかった。
その部屋は、物で溢れていた。
主婦の時間つぶしの習い事のちぎり絵の教科書、大量の和紙。
有名どころは勿論、それを元にした同人誌の山。
宝塚のミュージカルのパンフレットやファングッズの山。
「こんな部屋で犬を飼おうだなんて、無謀もいいとこですね。ペットは癒しをくれるけど、何事にも限度というものがありますよね」
もうひとりの警察官が先輩に同意した。
死んでいた女性は、それでも満足そうに微笑んでいた。
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