666文字百物語

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  17、鏡の国の花子さん  

 ねぇねぇ、知ってる? うちの学校の花子さんの話。
 階段のところに大きな鏡があるでしょ? 夜中の零時にその鏡に映ると、鏡の国に行けるんだって。……え? それが花子さんとどう関係があるのかって? 花子さんといえば、都市伝説の代表格じゃない? その花子さんが鏡の国の案内役なんだって。夜になると鏡の国に連れていってくれるの。どんなところなんだろうね、鏡の国。
 一緒に試してみない? それとも意気地なしだから無理? ……だよねー、全然怖くないよね。じゃあ零時に、鏡の前で待ち合わせね!

 まだ、来ない。もう零時はとっくに過ぎてるのに。あの子は何をしてるんだろう? まさか、鏡の国に閉じ込められたとか? ……馬鹿馬鹿しい。
「こんなの、ただの鏡じゃない」
 わたしは踊り場に置いてある大きな鏡を覗き込む。その瞬間、フラッシュのような光が眼に入った。何が起きたのか、すぐには理解できなかったけれど、わたしはどこかに閉じ込められたらしい。そしてそこは、それまでわたしが覗き込んでいた鏡の中としか思えなかった。……鏡の向こうでは、邪悪な笑みを浮かべた『わたし』が、こちらを覗き込んでいる。
「ただの鏡じゃないの、鏡の国への扉なの」
 『わたし』はそう言って、老婆のもののような、黄色く変色した歯をわたしに見せた。
「出して! ここから出して!」
 わたしの姿をした、もうひとりの『わたし』こそが花子さんなのだとやっと気づいた。鏡の国とは、生者と花子さんの身体を反転させる、たぶんそんな場所だったのだ。
「じゃあね」
 『わたし』は満足げに高笑いをしながら去って行く。
 わたしはそのまま声も届かぬ鏡の向こうに向かって、一縷の望みを賭けて助けを求め続けた。
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