666文字百物語
16、不思議の国の花子さん
ねぇねぇ、知ってる? うちの学校の花子さんの話。昔は花子さんはトイレだったらしいけど、最近では不思議の国なんだって。不思議。
なんでも、夜に学校の下駄箱に来るとジュースとクッキーが置いてあるんだって。それを食べるとね、不思議なことが起こるんだって。やっぱり身体が大きくなったりするのかな? ウサギを追いかけることになるのかな? ……ねぇ、今日の夜、一緒に試してみない?
来たね。夜の九時、約束の時間ぴったりだよ。怒られなかった? そう、それはよかった。……え、うち? うちはお母さんがうるさく言うけど、無視しちゃうから。さ、行こう!
あるね、下駄箱の上にトマトジュースと美味しそうなお砂糖がまぶしてある、真っ白なクッキー! なにしてるの? 食べないの? なくなっちゃうよ? いいの? 本当に? そう、じゃあわたしだけもらうね。わぁー、どっちも甘くておいしい!
でもさ、『不思議の国の花子さん』って、結局なんなんだろうね? ただトマトジュースとクッキーが置いてあるだけじゃない。ぜんぜん怖くないじゃない。ねっ!
……あれ? なんかわたし、小さな女の子が見える! ボロボロの吊りスカートを穿いた、おかっぱの女の子。その子がね、こっちにおいでって手招きしてる! 気のせいじゃないよ! 女の子が寄ってくる! 助けて! 逃げないでよ! わたしを置いていかないで!
来ないで! あなた花子さんでしょ? えっ、違う? 三途の川の追いはぎ婆? 最近ではあの世を『不思議の国』っていうの? そんなのわたし聞いてないよ。聞いて――
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