666文字百物語

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  12、フェミニストのマニフェスト  

 政治家の当落を左右するのは、ズバリマニフェストだ。
 そして、一昔前の男尊女卑の時代はもう終わった。私の出馬する地区の有権者は半数以上が女性らしいと知り、なおさら女性の存在は大きいのだと実感した。元から私はフェミニストであり、女性を尊敬している。男に子供は産めないが、女性は産める。これが女性の方が男より優れているなによりもの証ではないか。  だから私のマニフェストはおのずと決まる。『女性を大切に、中心にする社会を作る』。私はフェミニストだし、ぴったりの公約ではないか。
「えーお邪魔しております、○○です。今回出馬したのは、日本のあまりにも根強い男性優位社会に疑問を覚えたからであります。そもそも男性政治家に物申したいのは、貴方本人はいったいどうやって生まれたのかということです! 女性の存在を無視して、日本の発展はありえません。よって私は、女性優先社会を作ることをここに宣言いたします!」
  結果はいうまでもなく、女性たちからの厚い支持の元、私は無事に当選した。それはいい、掲げたマニフェストの通り、女性のための社会を作るために尽力するだけだ。……ただ、少し気になる、不思議なことがある。
「この街の女性の数って、ここまで多かっただろうか?」
 周囲に訊いてみても、みんな揃って首をかしげるばかりだ。本当になんなのだろうか。


「聞いた? ○○氏、当選ですって!」
「当然よ。女性に優しくするってことは、女性であれば幽霊でも優しくしてくれるんでしょ?」
「わたしも彼に入れたわ」
「それにしてもイイ男よね!」
 この街の地縛霊たちは、選挙ポスターに写る○○氏を熱のこもった視線で見つめていた。
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