666文字百物語
10、花一匁
『はないちもんめ』って知ってるかい? そう、手を繋いで、「誰誰ちゃんが欲しい」っていう遊びだよ。あれにはルーツがあるんだよ。……人身売買のね。
僕の育った村は貧しいところで、どこの家も等しく貧しかったんだ。僕たちは父さん、母さん、僕、妹の四人家族。それでも人数は少ない方だったんだ。なにしろ、昔の話だからね。昔は子供がたくさんいたんだよ。
僕と妹はよく友達と一緒になって、無邪気にはないちもんめで遊んだっけ。勝ってうれしいはないちもんめ、負けて悔しいはないちもんめ。当時の僕たちは本当に何も知らなかったんだ。
だから、いざ人買いがうちの村にやってきた時は驚いたものだ。しかも買われていくのは決まって女の子。僕は大事な妹が売られて行かないかとびくびくしていた。そしてその予感は的中して、うちにも人買いが来たんだ。
僕はその様子を障子の隙間から覗き見ていた。
「――一匁。それ以上は出せないねぇ」
「そんな! あの子はまだ小さいんですよ?」
「それじゃあ、この話はなかったことに……」
「…………」
父さんも母さんも、困り果てているようだった。でも、うちも食べていくのが難しいのは知っていた。だから父さんも母さんも、泣く泣く、たったの一匁で了承したんだ。
そして、いざ人買いに対面したのは妹ではなく、僕の方だった。僕は何が何やら理解できなかった。
「こんな綺麗な男の子が好きという奴も大勢いるんだよ」
その人買いの強欲な笑みに、僕は逆らえず、ただ引きずられるように夜の闇の中に連れていかれたんだ。
『買って嬉しい花一匁、まけて悔しい花一匁』。その歌声がどこからか聞こえたような気がした。
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