666文字百物語

モドル | ススム | モクジ

  7、過ぎたるは猶及ばざるが如し  

 昔の人って、こんな不便な暮らしをしてたんだ――  車もなければ、インターネットもスマホもない。服も着づらそうな着物ばかりだし、髪型もみんな同じようなもの。個性というものがない。
「はい、次は食事を見てみましょう。これが過去の一般的な食事です」
 先生がそう説明したので、わたしはそちらをちらりと見た。食卓に並んでいるのは、茶碗にほんの少しの麦飯と、たくあんがふた切れ。それだけらしい。だって、見回してもそれ以外のおかずはないもの。思わず不機嫌になりそうだ。
「昔の人はこのような食生活だったんですね。あなたがたは本当にいい時代に生まれたんですよ。昔は赤紙というものが来たら、男子は軍に入らねばならなかったんですから――」
 はいはい、もうわかりましたよ。この時代に生まれて良かったです、わたしたちは幸せです。そう言えばいいんでしょ? 昔のことなんてわたしには関係ないじゃない。


 昔の人って、こんな不便な生活をしてたんだ――
 移動ドアもなければ、ベルトコンベアもない。徒歩で通学しなきゃいけない。信じられない。
「昔の人は働き者だったんですね。でもこれだけ発達してしまえば、もうこれ以上の発展のしようはありませんからね。皆さんはただ遊んでいればいいんですよ」
 じゃあ、貴方はなんで働いているんですか? そう問いかけるのも面倒で、わたしはタプタプのお腹をいつも通りさすった。みんなも同じだ。ああ、何か面白いことないかな――
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