666文字百物語

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  6、拝啓、愛しの先輩  

「今時ラブレターとか、少し引かれるんじゃないの?」
 そんなことを言われても、わたしには誇れるものがこれしかないのだからしょうがない。ただ一つだけ、周囲に認めてもらえるのは字が上手いらしいということ。自分では普通の字を書いているつもりでも、どこか恋文でも書くための文体だと指摘される。
 それしか特技のないわたしだから、メールなんて絶対にダメだ。わたしの皆無と言っていい魅力(?)をアピールするには手書きの手紙しかないんだ。
「あんたがそうしたいっていうなら止めないけどさ。……センパイみたいにモテる人から見れば、人の好意ほど重いものってないって感じるんじゃないの?」
「……う」
 わたしの想い人、好きな人である先輩は、とてもモテる。というか、人気がある。
 それもそうだと納得するだけのものを、先輩は持っているから。
 整った容姿、優秀な成績、優しさの詰まった笑顔、見る人がつい見惚れるような雰囲気。……そのすべてを無自覚に撒いているから、先輩が好きだという女子は後を絶たないのだ。わたしいがいにも先輩が好きだという子は多いし、本人に自覚がないというのはだいぶ罪作り。
 その先輩がよくいる場所が図書室で、本を片手に文字をいつも追っている。その美しい姿だけで小説でも書けそうなくらい。それだけ絵になる先輩だから、古風に恋文がいいと思ったんだ。
 わたしは一生懸命に書いたラブレターを下駄箱に入れる。
 ――どうか、先輩に届きますように。
 女の子同士だって、恋愛は恋愛だもの。好意は必ず届くって、わたしは信じてる。

 でも先輩、中学時代からの彼氏の影が目撃されているんですが、冗談ですよね? 先輩が男なんか相手にしているなんて知ったら、わたし、どうなるかわかりませんよ?
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