666文字百物語

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  5、なんでも叶えてくれるなら_ある少女の場合   

 やぁ! 僕は神様の使いだよ! 神様って言い方が気に食わないなら、仏さまの使いと呼んでくれてもいいよ。まぁ、よろしく。
 そんな僕が何の用もなしに地上に降りてくるわけないでしょ? 用事はね、君の願いをなんでも一つだけ叶えてあげるということ。神様のご命令ってわけだ。
 ただし、リスクはあるよ。必ず煉獄、もしくは地獄に落ちるということ。その覚悟が出来て、願い事があるのなら言ってごらん? なんでも叶えてあげるから。


「マジで? マジでなんでも叶えてくれるってわけ?」
「もちろんさ。それにしても君はずいぶんお洒落なんだね。そんなにブランド品ばっかり持ってどうするの?」
「だってあたし、ブランド大好きだもん! だからぁ、願いはもちろんこの世の中の高級ブランド品をすべて手にする事よ!」
「……若いのに、君って物欲の権化だねぇ。まぁいいけどさ」
 神様の使いとやらは、やけに素直に頷く。タダでブランド品を沢山手に入れられる。あたしって、なんてラッキーなんだろう。死んでからのことなんか、どうでもいい。あたしは生きているうちに好きなものに囲まれて暮らす。それがあたしの幸せ、あたしの望みだ。
「ほうら、まずは小物から!」
 部屋の中にいきなり出てくるのはハイブランドの腕時計、キーケース、名刺入れ、化粧品も各種。こいつ、やるじゃない。
 あたしがうっとりとブランド品に見惚れている中でも、新しいものが沢山出てくる。ポーチ、バッグ、トラベルケースまで。……って、ちょっと待って。
「こんなにあたしの部屋にブランド品があったら、あたしが窒息しちゃうじゃない」
「だって、君が望んだことだろ? 好きなものに囲まれたいんでしょ? 好きなものに潰されて死ぬなら本望じゃないか」
 やけに神の使いとやらの声が響く。あぁ、この本革のにおい。あたしはいつしか呼吸も忘れて、更に考えることも忘れた。
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