666文字百物語
3、なんでも叶えてくれるなら_ある女の場合
やぁ! 僕は神様の使いだよ! 神様って言い方が気に食わないなら、仏さまの使いと呼んでくれてもいいよ。まぁ、よろしく。
そんな僕が何の用もなしに地上に降りてくるわけないでしょ? 用事はね、君の願いをなんでも一つだけ叶えてあげるということ。神様のご命令ってわけだ。
ただし、リスクはあるよ。必ず煉獄、もしくは地獄に落ちるということ。その覚悟が出来て、願い事があるのなら言ってごらん? なんでも叶えてあげるから。
わたしは、これはきっと日頃の行いがいいからなのだと思った。じゃなきゃ、こんなおいしい話なんてない。たとえテレビのドッキリだったとしても、あの男の名誉に傷をつけられるのならば上等だ。
「望みはただ一つよ。ある判事の人間性がどうしようもないくずだってことを世間に公表して欲しいの!」
大事な大事な子供を抱きしめながら、わたしは興奮していた。この子の父親は、まだこの子が乳飲み子だった頃にわたしたち母子を捨てて、すぐに他の女のところへ行った。きっとこんな思いをした女性はわたしだけじゃないはずだ。
「すごい食い付きだね。そんなに相手の男に思い知らせてやりたいとか?」
「そんな生ぬるいものじゃないのよ。なんでも叶えてくれるんでしょ? あの男の女関係をばらしてよ。それがわたしや他の女性たちのためになるの。わたしだけの望みじゃないはずよ!」
「ま、なんでも叶えるって言っちゃったからね。その代わり地獄行きは覚悟してね?」
言った途端、テレビに緊急ニュースとしてあの男の女性関係が表示された。しかし、わたしの望んだ関係までは書いていない。神の使いとやらが呟いた。
「あーあ。君は勘違いしてたんだね。その子の父親はこの男じゃない。別の男でしょ? そりゃ相手からしてみれば他の男の子供なんかかわいくないよね」
わたしはなんのことか思い当たるふしを考えて見たものの、もう認知症が始まっている頭ではろくに思い出せなかった。わたしが今抱いているのは、ただの人形だった。
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