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  三十章(了)  

「寄生木! 何度言えば解るんだ? その髪は校則違反だから染め直しなさい!」

 いつも通りの日常、いつも通りの担任教師の偏見に満ちた高圧的な声、いつも通りに嘲笑するクラスメイト。いつもならば委縮してしまうところだが、この日――二学期の始業式では様子が違った。

「先生、僕の髪はご先祖様の遺伝です。染めることはご先祖様への侮辱です!」

 そう勢いよく言い返されるとは思いもよらなかったのだろう。担任教師も、クラスメイトも、皆一様に驚いている。
この夏で身長もやや伸びて、碧玉京の太陽で程よく焼けた肌は、女子から見ればポイントが高いらしい。

「寄生木君、なんか変わったよね!」
「うん! カッコいい!」
「わたしは前からいいと思ってたのよ?」
「ウソばっかり!」

 そんな女子のひそひそ声が面白くないのは男子一同だった。しかし、あまりにも以前と違う堂々とした麒麟に因縁をつけられるような度胸など、誰一人持っていなかった。そんな男子たちは、当然女子からは減点対象だ。
 それから麒麟は女子に言い寄られることが多くなった。
主に校舎裏での呼び出しが多かったのだが、ただ会って直接断るためだけにそうした。誰が言い寄っても――学年一の美少女と名高い少女でも、麒麟は一切相手にしなかった。あまりにも幼すぎるのだ、『彼女』よりも遥かに。それが告白を断る理由だった。……だからこそ、「我こそは!」と挑むように告白してくる女子も増え、困っているところだ。



 『碧玉京』という地名は、教科書にも地図にも載っていないし、考古学者の父でも知らなかった。
どうやら麒麟の両親の記憶からは『スフィア』という名の古代の少女の記憶は残っていないらしい。時代を変えないために、朱が施した処置だと考える。
 ……今でも彼女の記憶は鮮明に残っている。
あのあおい髪と眼、凛々しい顔立ち、一本気な性格。どれも現代ではお目にかかれないタイプだ。だからこそ彼女に強く惹かれるのだと麒麟は思う。
 教科書にもどんな本にも載っていない以上、あの後で碧玉京がどうなったのかなど知る由もないが、きっとスフィアならばいい国を作っていると思う。そんな不思議な確信が麒麟にはあった。

 家宝だったルビーの勾玉は、最後に麒麟を現代に送り返した後で粉々に割れてしまった。タイムトラベルなどという所業が可能だったのは、朱の強い想いがあったからこそだと思う。そんな彼の本心を想い人に伝えられなくて、子孫としては情けない気持ちになる。
 ……だが、ひとつ気になる事がある。今、自分が存在している以上は当然の疑問だ。返事を期待しないで、ただ『想って』みる。

 ――スフィーが大事過ぎて手が出せなかったのは解るけど、二度目の相手はどんなひとだったの?

 予想した通り、ご先祖さまからの返事はなかった。
 
 ……あの古代の京とは色合いこそ違えども、今日も空は美しい『あお』だ。

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2015年 9月1日 莊野りず
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