666文字百物語
1、大切なものは目に見えない
わたしには、大事な人がいます。一言でこの関係を言い表すのならば、照れくさいですが、恋人というのが的確だと思います。恋愛関係にある男女ですから、間違ってはいないと思うのです。
生憎と、わたしは彼の姿を見たことがありません。わたしは目が見えないのです。幼い頃はそのことを気に病んでいたものですが、点字を覚えて本を読めるようになると、少しは慰められました。
『大切なものは目に見えない』
たしか、星の王子様のに載っていました。わたしはこの言葉にとても勇気づけられたのです。
わたしの大事な人は、わたしを好きだと言ってくれる人は、愛してくれる人は、姿は見えません。見たことがありません。でも、大事な人だからこそ目に見えないのだと思うと、不思議と気が楽になるのです。
彼の手は大きくて、いつもわたしの手を引いてくれます。白いつえをつきながら歩くわたしに障害物があれば教えてくれて、わたしが人にぶつかりそうになると、必ず庇ってくれるのです。わたしはこの目を引け目に思っていましたが、彼のおかげで最近はそれほど卑屈になることもなくなりました。……すべて、姿がわからない、彼のおかげです。
もしも彼の外見がどれほど不細工と呼ばれるようなものだったとしても、わたしは美しいものを見たことがないのです。だから、どんな姿の彼でも、わたしは受け入れられるのです。
でも、一度でいいから、彼の姿を見てみたい。
「やめておけよ。俺なんか、不細工通り越して、ガイコツだからな? 骨っぽいだろ、俺の手。実際に皮がついてないんだから、当たり前なんだよ」
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