モモゲンテイ。

 今日も、高校三年生で、どこからどう見ても、学年一の人気者である坂本昇の周囲には人の影が絶えない。
それは女子が、彼の優れたルックスに惹かれてのものが大半だと思われるし、女子がイケメンに惹かれるのは、ある意味当然の事。
しかし一部の男子も彼の元に近づくという一点においては、彼は意外なタイプだといえるかもしれない。
「坂本ぉー!」
 女子の「何なのコイツ?」とでも言いたげな視線に耐えつつも、媚でも売るような同級生は、昇に向かって拝むように手を合わせる。昇からしてみれば、自分から男として一番大切な『プライド』を、あっさりと捨ててしまうという神経は理解できないが、彼の成績ではそれも納得。
この、正直に言えば、名前すら憶えていないレベルの同級生の他にも、昇を頼る男子は大勢いる。そんな大勢の中でも、自己主張が出来る、という点では、この名もろくに覚えていない同級生は素直でいいと思う。
「ちょっと、あたしたちは坂本君と……!」
 所謂ツリ目で、いかにも気の強そうな彼女は、更に失礼で申し訳ない気分になるのだが、彼と同じく名も知らない。その彼女は、そんな彼を軽蔑の眼差しで睨みつける。こんな事は日常茶飯事で、何も悪くない自分がまるで悪者のようで、いたたまれない。
 坂本昇はそういった高校三年生だった。見た目は前述の通りのイケメンで、体格も女子が惹かれるタイプ、しかも元々頭の良い家系なのか、彼は授業を受けるだけで大抵の事は理解できてしまう、所謂天才肌。大学進学のために予備校に通っていても、家での予習と復習に必要とする時間はほとんど必要としない。
 そんな彼は、当然成績もトップクラスで、どうしても勉強が苦手な同性すらも放っておけないという点で、性格も優しく親切だ。これならば女子に好かれるな、男子にも好かれるな、そんな事を言う方が間違いではないだろうか。
「あぁ、ごめん。でも俺は、君と話すよりも彼にアドバイスしたいんだよ。女子には多分、彼が俺を頼ってくるって事実が、どれだけ重いのかは理解できないと思うし……」
 こんな時にも、誰も傷つけたくない一心でそう話す。
あくまでも、誰に対しても優しく、親切に、というのがこの坂本昇という高校三年生の信念であり、いつもその信念に従い続けているところは、自分でも評価に値するのではないかと、常々思う。
 案の定、それまでは強気な態度を崩さなかった女子は、急に涙を浮かべて「もうイヤ!」と、一言叫んでその場を立ち去る。
想定していなかったわけでもないし、自分を罵る事で彼女が少しでも傷つかずに済むのならば、本音を言えば「いくらでもどうぞ」だ。
「ありがとう! やっぱり坂本は違うな! 女子に好かれるのも納得だ!」
 彼が庇ってやった相手は、プライドが傷ついたであろうに、昇に心からの感謝の言葉を述べた。
「……まぁ、自覚はあるんだ。親父にも言われてるし、『お前は何を考えてるんだ』なんてコトを。でも、三つ子の魂百まで、なんて言葉もあるくらいだし、俺は根っからの世話焼きなんだろうな」
 ちなみに彼は兄弟姉妹を持たない一人息子、それも典型的な権威を得意げにする傲慢な医者である父を持つ。その事実は実は彼を深く蝕んでいるのだが、当時の彼にはそんな自覚などない。
「……で、どこがどう解んない?」
 彼は手にしていた鞄から、教科書を取り出そうと、手を突っ込んだ。その一挙一動に目が離せない男子たち。
 これが坂本昇の日常。彼は自分が正しいと思う行動しかしないし、誰にでも親切に、素直に接することが出来る、今時珍しい高校生だ。


 しかし、人間誰しも意外性というものはある。それは当然彼――坂本昇にも当てはまった。
学校での彼はどこからどう見ても様々な意味で『イケメン』だ。だが彼には非常に残念な、とある『性癖』があった。
それも小学校の……何年生だったっけ。すべてはそこに起因する。彼がどうしても女子に冷たく当たりがちなのも、その辺りに原因があると、高校生になった今では思う。
その『きっかけ』は、とある女児向きのテレビアニメで、当時にしては大変前衛的としか言いようのない、『ジャンル』という一言で説明するのは難しいが、強いて言うのならば『児童文学擬人化』と言ったジャンルのアニメだった。
 元々、一人っ子に多く見られがちな特徴としては、ひとり遊びが得意という点が挙げられるはずだ。更に補足としては、親二人の子一人の三人家族になりがちなので、両親には深く愛されるメリットがあるが、その本質は寂しがり屋だ。だが、その逆に一人きりの時間も欲しがるという矛盾する欲があったりもする。
 そんな訳で、当然幼い頃の彼も典型的な一人遊びとして、読書という趣味が大好きだった。
活字の漢字の意味は理解できないが、辞書を引くのもまた楽しい。知りたいという欲望を満たしてくれる、という点でも、この読書という趣味は、昇にピッタリの趣味であり、遊びだった。
そんな彼の、高校生になった今でも、夜眠りにつく前に必ず読む彼的バイブルがある。それはドイツの有名作家による、これまた有名古典の児童書、ミヒャエル・エンデ作『モモ』だ。
 物語は、時間どろぼうと呼ばれる灰色の男から、ある程度大人になった今でも、昇が『恐ろしい』と思う相手に対しても果敢に立ち向かう、少女の物語。大事な友達ならば、大人の男の人であるベッポやジジ、その他の同じく子供たちのためならば、あたしだって逃げない! という、主人公の少女・モモに毎回感情移入してしまう。フィクションの世界だからこそあり得る世界観なのに、『社会的に圧倒的な弱者であるホームレスの少女』が、強力なバックアップをしてくれる人物がいるとはいえ、彼のペットであるカメカシオペイアと一人と一匹だけで圧倒的不利に立ち向かうという、潔さや芯の強さ、そして何よりも勇気に強く惹かれるのだ。
 そして、予め原作を読んでいたとはいえ、擬人化されたモモのアニメのキャラクターデザインは昇の理想のモモの姿だった。
第一話を見た時はモモの出番は少ないかと思ったが、そこはあくまで子供だったし、「いつ出てくるんだろう?」なんて期待しながら視聴を続け、そのモモが登場したのは物語の後半だったが、彼は大いに『理想のモモ』を生み出したスタッフに感謝した。
 それが坂本昇という高校三年生の、困った『性癖』だった。
相手の気持ちを一切考えず、平気で相手を傷つける神経の女子など、こちらからお断りしたいし、一生結婚できなくても構わない。理想の女性像はやはり『モモ』だ。彼女のような女性以外は、交際すらありえない。
だから彼の行動理念は、創作の中のモモのように、高潔でありたいと願い、敢えて同じ男子からは「お高く留まった嫌な奴」と陰口を叩かれようが「それがどうした?」としか思わない。
 実はある意味かなり危ないのだ、この坂本昇という高校生は。


 そして、案外世の中というものはバランスが取れるようになっていたりする。
 事の起こりは、いつものように、予備校で勉学に思う存分に励んだ後の事だった。彼の母親は典型的な教育ママで、父親は一人息子に「私の後を継げ」と、ことあるごとに口癖のように言ってくる。この事実だけで昇の家庭、両親が彼に望むことは明白だ。
その事を知っているから、特に雨の日には足取りが重くなる。いつも向上心は忘れてはならないと考える彼も、こんな雨の日には思わずため息が漏れる。
「……あのモモも、雨の日は苦労したんだろうな」
 そこは「何で降ってくるんだよ、今日は傘なんて持ってねーよ」とでも、普通の男子高校生ならば文句を言うところだろうが、重度の彼にはそんな言葉など微塵も浮かばない。何かにつけて『モモ』に関連づけて考えるのは、彼の悪い癖で、今更だ。
 そんな時だった。前方に、思わず我が目を疑うレベルの『ありえない』存在の姿を視界に認めた。思わず肩から下げている学生鞄は滑り落ちて、すぐ傍の水たまりに落ちたのだが、そんな事はどうでもいい。昇は思わず声を漏らしていた。
「も……モモ?」
 それは幼い頃に見ていたアニメに登場する、児童文学『モモ』の登場人物の『モモ』を擬人化した姿がリアルでいたら「まさにこうだ!」と胸を張って答えられる、そんな『理想のモモ』。
制服ではないし、中学生にしては顔立ちから身長から、纏っている雰囲気から、どれもが幼すぎる。……そんな彼女は色褪せた市販のスカートを身につけていた。はみ出る擦り傷の処置であろう、絆創膏を張った膝小僧を両手で必死に庇うように、抱き締めるようにしている。
この場所でしゃがみこんでいたのは、雨をしのぐためだろう。なかなかしっかりしている。
彼女は、まるで理不尽な何かと戦うような『覚悟』を感じさせる、真剣そのものの眼差しで言った。
「……だれ?」
 その『理想のモモ』は怪訝そうに、しかし果敢な眼差しを昇に投げてよこした。だが、やはり彼女が幼い事には変わらず、その小刻みに震える膝から、昇はあっさりと彼女が不安でたまらないということを簡単に察した。
それ以前に、今の時刻は昇の電子腕時計が一秒たりとも狂わない電子腕時計が示す通り、夜の十一時を刻んでいる。そんな時刻に、どう見ても小学生の、それも女子がなぜこんな場所にいるのだろうか? ……思わず目の前の彼女に朽ちた場所に住む『モモ』を重ねてしまうのも、ある意味必然ともいえる。
「うちにこない?」
「え?」
 ついそう声をかけてしまっていた。目の前の少女の、更なる怪訝そうで不審そうな顔も尤もだ。なにせ一言も会話をした事のない、彼女から見れば『見知らぬ他人』でしかない年上の男が誘拐目的としか思えない言葉を吐いたのだから。
「……なんでわたしのことなんてなんにもしらないお兄ちゃんが……」
「君が、俺の理想のモモだからだよ!」
 いつもの慎重かつ思慮深い昇の性格はどこへやら。彼は現在完全に、『理想のモモ』の容姿をした小学生女子に釘付けだ。
少女は幼いながらも、この自分から見ればはるかに年上の『大人なお兄ちゃん』にどう返したものかと、必死に悩む。だって、初対面で『俺の理想の』『モモ』という、意味不明な単語を並べられたところで、何の目的でこんな事を言うのかが意味不明。しかも彼女は、得意な道徳以外の勉強は苦手だった。なぜ道徳が得意なのかは彼女自身でも不明だったのだが。
「こわいので、いやです」
 その一言を聞いた途端、昇はその場に崩れ落ちそうになる。
目の前の『理想のモモ』の発する言葉というものには、これだけの破壊力があるのか、なんて彼のハートはブレイク寸前。しかし、彼の持前の冷静さで、幼い少女は保護するべきだと判断を下した。もちろん変な意味はない。
「いや、確かに俺は君にとっては不審者そのものだったし、いきなり『家においで』なんて言われて警戒するのも解る。……けど、なんで君のような幼い小学生が、こんな夜遅く……俺はある程度は大人だから、解ると思うけど、なんで小学生にしか見えない君が夜の十一時まで、こんな危険な所にいるの?」
 昇の尤もな質問には、単語の正しい意味などは理解できないし、そもそも小学三年生であるところの彼女は知りようもない。それの彼女は道徳以外は大の苦手で、その道徳の次に得意なのは体育しかない。つい反射的に幼い子供独特の柔らかい唇を噛んでしまう。
 その様子に昇はこの幼い少女がただの小学生ではないと確信した上で言葉を重ねる。
「……確かに俺は、君から見れば、ただの不審者だよ。うん、むしろそうやって警戒した方が正しい判断だ。……やっぱりモモは賢いな」
 そう、少女の無反応にむしろ感心していると、肝心のその少女は逆に昇に関心を持った様だった。どうやら、今までには出会ったことがないタイプだと、道徳が得意なお利口さんは直感でそう直感した。少女はおずおずと口を開く。
「あの……お兄さんは悪いひと、なんですか?」
 この物事を正しく見透かす眼を持った少女にはますます興味を惹かれる。ここまで正直だと、逆に心配になるレベルだ。もちろん正直なのは良い事だけれども。
「……ここで、その質問はダメだよ。もし、俺が『本当に悪いひと』だったら、君は最悪、もう死んでるよ?」
 昇のその一言で、自分が行った事は、それだけの『危険を孕むモノ』だとやっと気づいた少女は一気に顔面蒼白になった。慌てて昇はフォローを入れる。
「ああ、もちろん俺は……多分、君の言う『悪いひと』ではないと思う。信じるか信じないかはもちろん君の親の判断次第だけど……」
 『親』という単語を耳にした途端に、少女の表情は一気に曇る。そしてどうやら昇は光栄な事に、『悪いひと』とは判断されなかったらしい。
「……おかあさんが、『あんたはゴクツブシのヤクタタズのバカなんだからカンドウする、出ていきなさいって言われて出てきた」
 その、無口な彼女には珍しい長い言葉に、彼女よりは長く生きている昇でも、思わずぎょっとした。特に、『勘当』の一言である。
 昇もその言葉を初めて聞いたのは、第一志望の有名大学への登竜門である、名門校に落ちた時に怒鳴りつけられたのだ。紆余曲折あってわかりあえたのだけれど。
「……勘当?」
「うん、カンドウ」
 顔色一つ変えずにケロリと言ってみせる彼女は、果してただの馬鹿か、それとも素直すぎるだけか。他人事ながら……昇としては放っては置けない。
「何にも悪い事も君が傷つくような事も、一切しないって約束するから、だからどうか、俺の言う事を聞いてもらえないかな?」
 彼女と目線を合わせて、優しい声音でそう問うと、少女は一瞬困ったような顔をしたものの、数秒後にはゆっくり頭を下げた。
「はい、ちゃんと聞きます」
 昇の目を真剣な目で見つめ返して、そう答えた。先ほどの軽い調子ではなく、声が硬い。少女は幼いなりに、昇の言葉を真剣に聞こうとしている。
「……ありがとう」
 無意識のうちに昇の口から出たのは、感謝の言葉。こんなに素直な子供なんて久しぶりに見た。思わず感動で無言になる彼を、見知らぬ少女は不思議そうに見つめる。
「お兄ちゃんは、わたしの事が気になったんじゃないの?」
 少女の方からそう問われ、昇は我に返る。
「あぁ、そうだった! ごめんね、許してくれる? なんで君は、こんな時間に、こんな所にいるの?」
 やっと調子を取り戻した昇は、至極真っ当な言葉をやっと口にした。少女は「一体何なんだろう?」という不審な目を逸らさない。しかし、このお兄ちゃんならば、大丈夫だと判断
した。
「だから、カンドウされたの。子供の辞書にはのってなかったけど、お母さんが『出ていきなさい』って言うから、そういう意味かなって思って、家を出たの。……間違ってるかな?」
 ……意味的には間違ってはいない。だって『勘当』というのは一言で言えば『絶縁』という意味なのだから。少女のしたことは、『親の庇護をうける未成年』の立場としては、何ら間違ってはいない。
 だが、彼女の母親の言い分は、他人である昇からしても『間違っている』。その事を目の前のこの少女に告げるのは酷な気がした。……結果的にどう返事をしたものかと、昇は頭
を抱える。
「……お兄ちゃん?」
 少女が問いかける。彼女からしてみれば、自分より長く生きている以上、少なくとも自分より正しい判断を下せるはずの子の男子高校生がなやむなんて。余程の事があるに違いな
い。道徳の授業でも『ごんぎつね』や『泣いた赤鬼』なんかでも、人の情というものは大切なモノだと学んでいる。
「あぁ、ごめん。あまりの事に、なんて言ったらいいのか解らなくなって」
「わたしよりも頭がいいはずなのに、変なの!」
 そう言って、少女は初めて控えめながら笑った。それには少々驚いたが、無表情でいるよりはよっぽどいい。
「……やっと笑ったね。俺はそれでも嬉しいよ」
「なんで、わたしが笑うと嬉しいの? ……お兄ちゃんって、もしかしてロリコン?」
「それは違う!」
 昇としては大変不本意なレッテルを張られそうになり、慌てて否定する。すると少女の笑顔はますます輝いて見える。
「じょうだんだよ? お兄ちゃんっておもしろいね!」
 そう言ってからかう少女には、怒りよりも先に安堵した。こんなに幼い少女に、今時『勘当』などという言葉を平気で言い放つような親だ。相当な虐待を受けていてもおかしくはない。
それなのに、目の前の彼女は涙すら浮かべて笑ている。その事が昇を強く安心させた。
 そして困ったことに、やはり彼女にモモを重ねてみてしまう。きっとモモならば、こんな雑某的な事態でも、前向きに考えるはずだ。
「それで、勘当されて、何日目?」
「うーんと、三日目かな。お小遣いもないし、ホームレスのおじさんが教えてくれたコンビニではいき弁当をひろって食べてる」
 ……思った以上に、彼女は壮絶な環境にいたらしい。大の大人でも苦しいであろう環境に加えて、食料を明後日まで食べる。『ホームレスのおじさん』と言うが、彼女自身もホームレスである事には、果して気づいているのだろうか。
「……凄いね」
「そう?」
 一言感想を漏らしたが、目の前の少女にはそんな事など苦ではないらしく、ケロリとしている。もしかしたら家を追い出される前から、ゴミ漁りくらいはしていたのかもしれない。
 そういう雰囲気を纏った少女だった。
「……そういう事情なら、ますます放ってはおけない。うちに来てくれない? 悪いことなんかしないって誓うし、君に害を加えるつもりは一切ない。とにかく『ほっとけない』んだよ! 解ってくれるかな、この気持ち?」
 少女は真剣に昇の目を覗き込む。彼の様子は必死そのものだし、なぜ世話してやると上から目線で言わずに、お願いなのだろう。……なぜ、赤の他人の自分なんかのために、こんなに『必死』になるのだろうか。
 その辺りが一切不明だが、このお兄ちゃんはどうやら、少なくとも自分の『敵』ではないと判断した。
「……うん」
 少女の子の何気ない一言に、昇は天にも昇りそうな気分になった。あの『モモ』のような少女が自分を頼ってくれる。この事実だけで満足だった。……目の前のモモそのものの少女は不思議そうに首を傾げるだけだけれども。
 こうして昇は見知らぬ少女を『モモ』と呼ぶことを承諾してもらい、自宅へと連れ帰った。


 帰宅した昇を待っていたのは、予想通り、教育ママの母親だった。彼女は薄汚れた少女――モモの姿を一目見るなり、汚らわしいモノを見る目で冷たく言った。
「ちょっと昇? 貴方は一体どういうつもりで、こんな事をするの? 私もお父さんも困るじゃないの!」
 それはいつもの彼女独特のヒステリックな金切声で、聴いているだけで気分が滅入る。更に気に食わないのは、愛しのモモに対して悪し様に言った事だった。なぜこの母親はもっと
優しい、気遣いを感じさせる言い方ができないのか。そこが気に入らなかった。
「俺はちゃんと結果を出してるだろ? 模試だって第一志望を余裕で合格できるラインを保ってる。……母さんの求める基準は十分に満たしてると思うけど?」
 そう反撃するのはもちろん初めてのことだった。それ自体にも母親は驚いたが、彼女が文句はつけられず、昇がモモを伴って自室に向かうのを阻止できなかった。
 モモはひそひそ声で呟く。
「いいの? お兄ちゃんのお母さん、心配だからあんな事を言うんじゃないの?」
 子供ながら、なんという正論。やはり彼女はモモのようじゃないか。
「大丈夫だよ。何にも君が心配するようなことはない。……父親はそれほど甘くはないんだけどね。さ、着いたよ」
 昇は自室のドアの前でいったん止まる。勉強に忙しくて、小学生の頃に、図工の時間に作った『のぼる』の文字が歪な、木製ドアプレートの下がったドアをゆっくり開ける。
「これって、お兄ちゃんが小学生の頃に?」
「まあね。センスないだろ?」
 ドアプレートは紺に蛍光グリーンのミスマッチな配色。今でも昇は美術が苦手だと思うが、その辺はセンスがないから仕方がないのだろう。
「面白い色使いだと思うけど?」
 モモは素直にそう言って褒めてくれた。嘘が全く見受けられないので、これは本音だろう。
「ありがとう。君に褒めてもらえると、なんか自信がつくよ」
 ドアを開けて、部屋の中に入ると、中にあるのは勉強机とベッド、以外の家具は本棚ばかりだ。これにはモモも驚くしかない。
「すごいりょうの本! ぜんぶ読んだの?」
 驚きと尊敬の眼差しで見つめられると、流石に照れる。確かに理想のモモに褒められて、悪い気だけは全くしないが。
「趣味だからね。好きな事に夢中になるって事は普通でしょ?」
「こんなにむずかしい本まで読むの? わたし、なんて書いてあるのかもわからない!」
 この一言も、まるでモモだ。
 ミヒャエル・エンデの『モモ』に出てくる主人公の少女のモモは、確かにアウトローなホームレスだ。親の描写も一切ないし、兄弟姉妹すらいない。他の子のように学校にすら行っ
ていない。そんな、とことんなアウトロー。
 しかし彼女には、勉強から得られる『常識』や『知識』の代わりに、『豊かな想像力』を持っていた。だからモモと一緒に遊ぶ子供は、彼女が提案する新しい遊びをいつも楽しみにしていたし、次はどんな遊びを考えるのかとワクワクしながら、廃墟を訪れる。
「……お兄ちゃん?」
「あっ、まただね。ごめんなさい。ちょっと君みたいな女の子の事を考えちゃって……」
 この昇の一言に、モモの目が輝く。
「……わたしみたいな女の子? それってどんな子?」
「本に出てくる女の子だよ。……君に声をかけずにはいられなかったのも、その女の子のせいだよ」
 すると俄然興味がわいたらしく、しつこく「見せて」と可愛らしくねだってくる。表紙がボロボロになった『モモ』を見せると、彼女は微笑んだ。
「君には、あまり面白いと感じられないかもしれないけど、俺にとっては大事な一冊なんだ」
「それは一目見てわかるわ。ほら、ここ」
 そう言って、現実のモモが指差したのは本全体の手垢の跡。相当読み返さなければ、こんなものなどつくはずもない。昇自身すらその事には気づかなかった。
「……君は賢いね」
 部屋のベッドに腰掛けて、一枚一枚ゆっくりとページをめくる少女に向かって、そう漏らした。だが、彼女は一度もそう言われたことがないらしい。
「変なお兄ちゃん」
 彼女はそう漏らし、ゆっくりと『モモ』のページを捲る。一文字一文字を真剣に、刻み付けるように。
 愛しのモモとの至福の時間がそのまま過ぎる……訳などないことくらい、高校生の昇には十分すぎるくらい解っていた。
 その時間がぶち壊しになったのは、モモが数日ぶりに暖かいベッドの中で眠りにつき、昇が受験勉強のために机に向かっている時だった。


「昇ぅー! いるんだろう? 降りてきなさい!」
 高圧的な父親の怒鳴り声が、家じゅうに響く。いつものように酒をひっかけてきたらしい
 その様子は、どう考えても昼間の威厳ある医者のものとは程遠い。
 モモが起きてしまいやしないか。それだけを懸念して、昇は声に従って、一階へと降りる。そこにいたのは顔を赤く染めて、怒りを露わにした父親が、よりにもよって玄関先で怒り
狂っているところだった。
「……理由は解ってる。彼女の事だろ?」
 自然特徴が荒くなるのは、この理不尽な父親へのせめてもの抵抗だ。成人しても、少なくともこんな大人にだけはなりたくない。そう思い、密かに反面教師にしている父親。
「解っているのならば話は早い。さっさと捨ててこい!」
 その声は怒気を孕み、普段の昇ならば素直に従っていたところだ。しかし、今の昇はいつもの彼ではない。あのモモのように、大事な友達ならば、年下だろうが年上だろうが、身体を
張って守る、そんな自分でいたい。
「……困っている人を助けるのが、どうしていけない?」
「いくら優しいと言ってもいきすぎだと言っているんだ! しかもお前は学校なんていう小さな場所で成績がいいからって、他の連中に教えているそうじゃないか。バカのする事だ、そんな事は!」
 目の前の父は「何を当然の事を言っているんだ」と、息子を蔑んだ目で見る。が、酒で寄った顔では、正論かもしれないその言葉も台無しだ。
「あんたは、人を助けたいから医者になったんじゃなかったのか? 少しでも苦しむ人を減らしたくて、難しい勉強を頑張って、医者になったんじゃないのか?」
 いつもの息子らしくない態度に、彼の言い分には困惑していたのだが、彼かて父親という自負がある。
「子供が、未成年のガキが、知った風な口を利くんじゃない! 医者になったのは金のために決まってるだろう?」
「……そういう理屈ですか。もういいです。僕は貴方に育てられたことを、半分は感謝します。けれど、半分は羞恥心で一杯です。貴方のような人間なんて大嫌いです。……さようなら」
 昇はもう限界だった。憧れの名作、『モモ』の世界とは、あまりにも違う現実に、失望した。まさか自分の父親までもがこれほどだとは思ってもみなかった。
「待ちなさい! お前がいなくなったら、後継ぎは……」
 あくまでも自分第一の考え方。自分が一番で当たり前の世間のありよう。……虫唾が走る。


 昇は当面生活できるだけの荷物をリュックサックに詰めた。食料も缶詰がメインだが、日持ちするメリットは大きいはずだ。
「……お、兄ちゃん?」
 朝になり、ちょうど昇の起きる時間ピッタリに眠そうに眼を擦ったモモは心配そうに昇を見た。その昇といえば、私服のジーンズにパーカー、足元には大きなリュックサックが
ある。
 これらの状況だけで、彼女は昇が何をしようとしているのかを悟る。
「おはよう」
 そう言って爽やかに笑う年上のお兄ちゃんは、思わずモモもきゅんとした。その正体が何なのかはわからないけれども。
「……もしかして、お兄ちゃんも――」
「うん、出ていくよ」
 モモが言い終える前に、昇が短く言った。途端に焦ったのはモモだ。
「そんな……ダメだよ! お兄ちゃんにはシンパイしてくれるお父さんもお母さんもちゃんといるのに!」
「モモ……」
 確かに、彼女の環境からしてみれば、昇は恵まれているとしか言いようがない。モモが止めるのは当然だ。しかし、この目の前のモモも、エンデのモモも、二人とも人として正しく、
勇気がある。そんな生き方に憧れるし、そんな風に生きてみたいのだ。
 そう彼女に告げると、渋々ながらもついていくと言い出した。この家に残るように言いくるめると提案しても、首を横に振った。
「お兄ちゃんと一緒がいい」
 そう言って譲らなかった。小学生がこの状況でここまで言うには、どれだけの勇気がいる事だろう。やはり彼女はリアルなモモだ。
「俺は、君のためなら死ねる」
 彼女の真剣な言い分に対して、最も誠実な返事のつもりでそう言った。モモはそれを真剣そのものの顔で聞いて、頬を赤く染めた。
「ホンキにしちゃうよ?」
「どうぞどうぞ。だって本気で言ってるから」
 更にそう返すと、モモはもっと笑い、初めての満面の笑みを見せてくれた。
 こうして二人は両親の目を盗み、家を出た。


 それから数日は、ホームレスとしては先輩であるモモの指導の下の生活が続いた。ここのコンビニはこの時間に廃棄弁当が出るという情報、賞味期限を過ぎた食材の料理の仕方、水
の収集方法、その他の事も、モモは他のホームレスから仕入れた知識を惜しみなく昇に伝授した。
 幼い少女に過ぎない彼女ではどうしても不可能な事も、高校生である昇が一緒ならば可能だったし、孤独を感じなくて済んだ。それに互いの家庭の事情も話さない、ちょうどいい距離感があった。
 ある日の夕食の時間。この日は川で釣った魚を焼いて食べていたのだが、モモが楽しそうに言った。
「これって、自由っていうのかな?」
「うーん、自由っていうのは、義務ってものを果たした後に生まれる、権利だからね」
「……お兄ちゃんの言い方って、いちいちむずかしいことばっかりで何が言いたいのかわからないよ!」
 モモは手にした焼き魚を齧りながら、ややぶすくれた。そんな表情まで遠慮なく見せてくれるほど親しい仲になっていた。
「そっか……モモは賢いけど小学生だしね。中学辺りで習うんじゃないかな? まぁ、今の俺たちの言動は、少なくとも自由とは言わないと思うよ?」
 するとモモは不思議そうに首を傾げる。この少女はかなりの知りたがりなのだ。
「好き勝手していいのって、自由でしょ?」
 昇は自分の食べ方が、モモよりも汚い焼き魚の有様にため息をつきつつ、こう返す。
「好き勝手にしていいのは放埓っていうんだよ。自由っていうのは、するべき事、例えば俺と君ならば学生なんだし、勉強するべきだろ? これが俺たちの義務だ」
 モモはすっかり食事を忘れて、昇の言葉に聞き入っている。どうやらかなり気を引く話題らしい。
「その義務である勉強をする代わりに、権利っていって、まぁ、ご褒美として例えばお小遣いをもらえたりするんだよ」
「じゃあ、わたしたちがお小遣いをもらえないのは当然ね。だってそのギムもやってないもん」
 モモは納得した様で、再び魚に手を付ける。今はもう日が暮れて、一面真っ暗。場所は昇の家から離れた場所にある公園だ。良心は痛んだが、他に二人のいるべき場所なんて思いつかなかったので開き直った。
 当然、こんな夢のような毎日がいつまでも続くはずはないと解ってはいた。


 破局は、モモと出会った人同じ、雨の日の事だった。
 いつも通りの東屋のある公園で、いつも通りモモが、昇が食料を調達して来るのを待っているはずだった。昇はその日の収穫である、コンビニのからあげ弁当を二人分持って帰っ
た。その時は「久しぶりの肉だし、モモも喜んでくれるだろう」という気持ちで一杯で、その可能性など失念していた。
 いつもの東屋に戻ると、確かにモモは待っていた。……昇の父親に動けないよう拘束されて。
「もっ、モモ!」
「お兄ちゃん、来ちゃダメっ!」
 次の瞬間、彼女の小さな身体を抱えた父親はモモを平手打ちにした。その瞬間、昇の中で何かが弾けた。
「クソ親父! モモになんて事をすんだよ! それでも、あんたは医者か! 名医とか言われてるくせに、人として大事なもんがなさすぎる!」
 彼はそう叫ぶ昇を無視して、モモを睨みつける。それはとてもではないが子供に向けるようなモノではなかった。ただ、彼の誤算としては、モモはそんな視線に今更恐れるような子供ではなかった。
「……お前はこの子供と出会った事で、大事なモノを見失ったようだ。安心しなさい。この少女は私が施設に連絡してやろう」
「ふざけんな! その子は……好きでそんな目に遭ってるわけじゃない! その子はいい子なんだ! あんたも俺の親なのに、何で解ってくれないんだ!」
 昇の呼びかけにも全く答えない父親には、頭に来たし、どうにかしてやりたくなった。殺意というものはこういうものだと感じもした。……けれど、悲しいことに、昇を止めたのは、モモの心からの『純粋な子供の涙』だった。
「……もう、やめて……。お兄ちゃんも……もう、わたしは……どうなってもいいから」
 これには流石の父親も、拘束の手を緩めた。そこからゆっくりと、昇の元へと寄ってくる、モモ。涙と共に少し鼻水も流れているが、そこは子供なのだから仕方がない。
「……わたしのためをおもうなら、ね?」
 泣きわめきたいところだろうに、必死に笑顔を作るモモ。……やっぱり、いや、君はあの『モモ』以上かもしれない。
「……俺は進学しない」
 父に聞こえるように、ハッキリと口に出す。案の定、予想外の昇の言葉に大慌てだ。そんな事など、俺は知らない。
「だから、俺は高校をやめて、大検を取る。……家を出て、自分で稼いで、俺と彼女で暮らす。大学へは、自分で稼いだ金で行く」
 もう、こんな奴の世話になどならない、なってたまるものか。
「だ、だが……」
 父親が昇の前でここまで狼狽したのも初めて見る。息子がこんな人間だとは微塵も思っていなかったに違いない。だって彼は、昇のことをただの跡継ぎの道具としてしか見ていな
かったから。
 母親はそれなりに息子への愛情があったけれど、父親から感じていたのは、必ず私の後を継げるだけの人間になれよという圧力のみだった。そんな人を人と思わない人間など尊敬
できるわけがない。
 昇の言っている事が心底理解できないらしい。こんなのが父親だなんて情けなくなる。
 彼はモモに向き合い、使い古しで悪いけどと断ってから、自分のアイロンがかかっていない、折り目のないハンカチでモモの頬を伝う涙をぬぐう。
「……だから、君は何も心配しなくていい。俺は自分の事は自分でやるし、もちろん君を見捨てたりなんかしない。この約束を破ったら、殺しても構わない。その時は満面の笑みで死んでいくと約束する」
 モモは賢い女の子だ。昇の言っている言葉の意味などちゃんと伝わっているはずだ。だから昇は、彼女に大事な、これだけは覚えていてほしい言葉を継げる。
「だから俺は、必ず自立して、一生君を守る」
 雨音は段々強くなっていくが、昇の言葉はちゃんと届いたはずだ。その証拠に、モモは目をぱちくりさせている。きっと、今は頭を使いすぎてオーバーヒートとでも言うところかな。
 しばらく固まっていた、昇以外の連中が、エンデのモモの『時を止められた時間どろぼう』のように完全に動かないままでいる中、モモは照れた様に、でも心底嬉しそうに微笑んだ。
「……お兄ちゃんって、頭がいいはずなのに、おバカさんだね!」


 最初は苦労した。『給料をもらって働く』という事がどういうことなのかを身を持って実感した。
 最初は飲食店を選んだ。理由は交通費支給で、予備校のある駅と同じ駅にあり、通学通費の節約になったからだ。そこで俺は簡単なサイドメニューを作る係になった。しかし、こ
れがまた曲者で、調味料の量を正確に、一グラムも狂いなく測らなければならなかった。化学の実験や調理実習が大の苦手だった俺は、すぐにクビになった。
 それまでの給料はもらえたのだが、ミスの分を差し引かれて、予想していた額はもらえなかった。……今にして思うと、人としては大いに間違っている親父でさえも、医者という仕
事を全うしているという点においては、純粋に凄いと思えるようになった。更にその金で俺を大学に入れようとしていたのは、やはり『親の情』からくるものだと悟った。やはり俺は
まだまだ子供だったのだ。
 あの後、親父に別れを告げてから、たった時間は三か月と少し。今はモモと一緒に二間の安アパートに住んでいる。一部屋を居間と客間に、もう一部屋を寝室と勉強部屋に当ててい
る。
 俺は高校を自主退学し、大検を取って、自分の金だけで大学に進むつもりだ。学びたい学問があり過ぎて今は選べなくて困っている。モモは小学生なので、義務教育。
たまの休みに、俺が解らないらしいところを教えてやるのだが、彼女は道徳は得意だと胸を張って答えるのに、他に得意なのは体育だけで、他の勉強は大の苦手で、なくなればいいのに、なんて事をぼやいたりもする。
 そんな彼女に決まって俺は「算数が解らないと、買い物の時に困るだろ?」と諭して、モモもそれに慣れているので。文句は言わなくなる。
 すべてが上手くいった結果だ。……まぁ、俺の稼ぎは少ないけれど。モモも幼いなりに、俺の苦労を察してくれて、彼女なりに料理を作って食べずに待っていてくれる。味は……正直に言うと傷つけてしまうので言わない。でも小学生でここまで作れるのは純粋に凄い。なんて褒めると、彼女はわざわざ学校の図書室から簡単なレシピ本を借りてきて「これを作ってみようと思うの」なんて主張しだす。……包丁を持つたびに切り傷を増やすのは誰だっけ?
 

 今となっては。モモの正体なんて、身元なんて、どうでもいいとしか思えない。
 彼女が俺のつけた『モモ』という名を気に入って、傍にいてくれる。それ以外の俺の幸せなんてない。もちろん、モモにも何か考えがあることを否定するような趣味もない。 
 俺はただ、『幸せ』にカタチがあったらこんなもんじゃないのかって思うだけなんだ。
 多分モモは成長期を迎えるだろうし、俺だって大学関係で忙しくなる事は確実だ。だから、このしばらくの間だけでいいから、俺に幸せを感じさせてほしいんだ。……俺の言う事って、我儘かな?


 + +


 パソコンのエンターボタンに軽く手を触れて、彼女は『原稿』の仕上げに入る。誤字脱字など問題外。なにせ彼女は売れっ子の現役小学生の小説家だからだ。
 彼女の担当の女性は思わず少女の文章に引き込まれていた。リアリティがあり過ぎるのだ、彼女の文章には。それでつい、他のきっかけになった質問をしてしまう。
「……もしかして、このお話って、御影先生の――」
 そう尋ねられた小学生、少女作家は一言で片付ける。「そうよ」と。
 お兄ちゃん――つまりは昇はまだまだ先が見えていなかった。彼も苦労人のくくりには入るけれど、彼女ほどではない。彼女――彼からは『モモ』と呼ばれる少女は、生活のため
に文章を書くようになり、その副次的な作用として算数や歴史にも興味を持った。
「じゃあ、コレで完成です。ありがとうございました」
 物で散乱する部屋を、どう片付けるつもりなのか。そんな疑問は次々とゴミを纏めていく、目の前の小学生を見ているうちに見当がついた。そんな彼女が抱える完成原稿は『モモゲンテイ。』。彼女は彼女なりに、生活費を稼ごうと必死なのだ。
 しかし彼女と、あの雨の日に出会った『お兄ちゃん』は、心が満たされていたので後悔など一切なかった。
Copyright (c) 2023 rizu_souya All rights reserved.
 

-Powered by 小説HTMLの小人さん-