執筆応援企画SS集
シュピーゲル☆ルーワロミ
わたしシュピーゲル、フルネームはシュピーゲル・ルーワロミ。
変な名前でしょ?
でも変なのは名前だけじゃない。姿そのものももっとヘン。
わたしの見た目は10歳の女の子。どこからどう見てもチャーミングなプリティガール。
だがしかし、その正体はといえば、いえば、いえば、いえば――
「わかんないよ!」
なにせ、今のわたしの手元には鏡がない。
どうしてなのかわからないけども、いつも持っている黒いコンパクトがないと不安でたまらない。あれはわたしにとって一番大事なお守りだ。
あれ?
でもなんで鏡がお守りなんだっけ?
あれ?
わたし、何をしてたんだっけ?
わたし、何者なんだっけ?
「わからない。わからないわからないわからない……」
困った時はいつも鏡を覗き込んできた。
鏡はいつもわたしを助けてくれる。鏡を覗き込むと、わたしは意識がなくなって、次に眼を覚ました時には困ったことは片付いている。
宿題が終わらない時だって、お使いの帰りに迷子になった時だって、転んで擦りむいて痛くて泣きたくなった時だって。
わたしの鏡は必ずわたしを助けてくれた。
まるで鏡に心が宿っているかのように。
「かがみー! かがみー! 助けて―!」
困りことを助けてくれる魔法のヒーローは鏡。それは別に、いつも持ち歩いている黒いコンパクトでなくてもいいらしい。つまり、顔さえ映るのならば水たまりでもいいらしい。
鏡がなくて困っているのだし、わたしはこのあたりに水たまりはないかときょろきょろ見回してみた。
すると見つけた。
都合のいいことに、泥も油も混ざっていない、とってもきれいな水たまり。
さっそくわたしはそれを覗き込む。
どきどき。ドキドキ。
いつもならばここで世界が回ったような感覚があって、意識が飛んでいく。いけないものってこういう感覚なのかって気になる。
「さあ、鏡よ鏡、わたしを助けて! わたしの鏡を見つけ出して!」
水たまりが光を放ったと同時に、わたしは全身の骨がきしむような感覚を味わった。叩き潰して、粉々にして、そしてそれをまた練って、新しい骨を作るような。
「きた、来た来た来た!」
そして「私」は、それまで覗き込んでいた鏡代わりの水たまりに自分の姿を確認した。
つい先ほどまでとは違う、成熟した大人の私の姿を。
「……やれやれだわね」
私はつい癖で、伸びた髪をかき上げた。邪魔だったし、今の私にはその仕草はよく似あう。
相も変わらず「わたし」ときたら、なんて格好をしているのだろうか。フリルとレースたっぷりの白いロリータワンピース。たしかに似合わなくもないけども、なんとも子供子供している。
いつもは「わたし」が外に出ているから勘違いされがちだけども、本来のシュピーゲル・ルーワロミとは「私」ひとりのことだ。
今の私は20歳。わたしから見れば十分な大人の女だ。年齢に恥じない魅力的なすらりとした体つきをしているし、胸も豊かでウェストはくびれている。髪は滑らかなプラチナブロンド。今のこの服と合わせれば妖精だと勘違いするかもしれない。
そんな美貌の私がなぜ10歳のわたしというちんちくりんにこの身体を預けているのかといえば、理由はただひとつ。
疲れるから。
ただそれだけ。
日常生活にやるべきことをこなすだけでもメンドクサイ。ご飯食べるのもメンドクサイ。ずーっとベッドの中で夢の世界にトリップしていたい。
そんな漠然とした望みを抱いて10代を終えて、私はとうとうその望みをかなえることに成功した。
実は私、こう見えて魔法使いの三代目。おばあさまが有名な魔法使いだったから、孫にあたる私は三代目。
いきなり魔法使いとか言われても? まあそりゃそうだ。私もよくわからないもの。
なんでも、魔法使いになるためには必要なものは二つ。
血統と依代。
これさえあれば誰でも気軽に魔法が使えるらしい。
血統は問題ないし、依代もいざ魔法を使おうとしていたときに持っていた、黒いコンパクトがあったからそれで。
ようやく私はぐうだら生活を満喫することができるんだ!
わくわくしてさっそく魔法をかけて見た。
自分の核となる魂を二つに分けて、片方は「私」、もう片方は「わたし」に。
「わたし」には日常の面倒事を全部任せようと呪文をかけた。「私」は本当に必要な時にだけ呼べるように、「わたし」の意識にコンパクトの情報を刻んでおいた。
こうして私は心行くまでぐうだら生活をエンジョイできる――
……などという都合のいい展開にはなるわけもなく。
困ったらコンパクトに頼ればいいという、いかにも甘ったれな根性を身につけた「わたし」は、ちょっと困っただけで「私」を呼ぶ。その度に私は呼び出され、楽園から引っ張り出される。
「こんなはずじゃなかったのに……」
まったく、まさか自分の分身がここまでぐうだらだったとは。
これじゃ何のために魔法について調べたのかわからないじゃない。
「何でもかんでも入れ替わればいいってわけじゃないのよ、わたし」
私はもう何度目になるのかもわからない愚痴を吐き出し、自分の片割れに悪態をついたのだった。
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