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● 死にたくなければフラグを立てろ!! --- 終章 エミリア ●

「石橋先輩、お疲れ様です!」
 一年生の後輩がオレンジを基調とした花束を石橋先輩に渡している。それは女子の三人組で、剣道も男女平等に広がりつつあると感慨深く思う。俺が中等部の頃には女子の部員などいなかったのに。
 俺は剣道部の部長になった。とてもじゃないが石橋先輩のようなカリスマ性を発揮する事など出来ないだろうが、俺なりに精一杯頑張ろうと思う。
 石橋先輩に親近感を持つ部員は少なくない。それ自体は嬉しいことなのに、先輩が卒業してしまうのが惜しいと思う。
 剣道部の連中の傍では他の部でも送別会が行われている。
 恋はその中で、慕っていたらしい先輩に泣きついている。彼氏としては少々嫉妬するが、まあ最後のお別れだ。仕方がない。


 三月ののどかな空の様子を眺めながら、俺は何とも言い難い『寂しさ』のようなモノを感じていた。恋人の恋、親友兼悪友の健司は確かに一緒にいるし、忙しいながらも両親も健在だ。
 なのに感じる、この漠然とした『寂しさ』の正体が、いくら考えても解らない。確かピンク頭の女子と緑頭の男と出会った記憶があるのだが、話しても誰もそれを信じてくれない。
 もしかしたら俺のリアルな夢だったのかとも思う。しかしあの不味かった朝飯の味は忘れようがない。
 俺は卒業生の中に、アニメのコスプレをしたおかしな女子を見た気がした。その姿ははとても儚い光を帯びていて、凝視すると消えてしまいそうだった。
「陽くん、どうしたの?」
 気づくと、恋が不思議そうな顔をして問いかけてきた。
「いいや、何でもないよ」
 あの目立つピンク頭がこんなところにいるはずがない。俺は恋と共に卒業する先輩たちを見送った。
 あんなピンク頭なんて知らない――それは間違いない。俺には奴との記憶などないのだから。
 でもどこか淋しい気がして少しだけ泣いてしまった。
「……そうだよね、体育会系の部活って先輩は厳しいけど、ホントは優しいのがパターンだもんね」
 恋が俺にハンカチを差し出す。違うんだ恋、そうじゃないんだ。俺の寂しさの原因は、きっと――。



「本当に……これで良かったのか?」
 小金井陽の目のある前に木の上で、エミリオは妹に気遣わしげな声をかける。
「……よかったんですよ。その方が陽さんも長生きできます」
 最後のフラグ珠は淡いピンク色の特大サイズのものだった。エミリアはその球を陽の頭に括りつけた。透明になるマントを被った上で。これで陽は天寿を全うできるはずだ。
「……。言ったはずだ。生半可な覚悟でできる仕事じゃないと」
 エミリオは淡々と事実を告げる。
「お兄ちゃんは、やっぱり冷たいようで優しいね」
 エミリアは兄にもたれかかる。
「……お前、アイツの事、好きだっただろ?」
 兄の無遠慮な質問に、エミリアは苦笑する。
「さぁ?」



 春の新しい時に、再びエミリアはモテない男子の元へ急ぐ。すべては愛のために。
 カンパニーに所属する限り、エミリアの仕事は続く。彼女は彼女なりに、恋に仕事に生きるのだ。
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