666文字百物語
98、彼女の持ちネタ Pixivでは「372」
「今日も同伴? すごいじゃない! あなた、才能があるんじゃない?」
「そうですか? ただあの人って、今時純情っていうか、この手の場所に耐性がないだけで。ちょっと褒めただけでのぼせ上がっちゃったんですよ」
「ただ褒めただけっていってもさ、どの話題が相手にとってピンポイントなのかとか、見分けるのも才能のうちよ。やっぱりあなたをスカウトしてよかったわ!」
ママが満足げに笑う。あたしもとりあえずは相槌をうっておく。ここの権力者に取り込んでおいて損はないし。
水割りの材料を準備しながら、他の子も話に加わってくる。
「どんなことを話してるの? 政治? スポーツ? それとも愚痴をうんうんって聞いてるだけ?」
「どれでもないんです。ただ、あたし自身の話に興味があるみたいで――」
すると相手の子も、ママも驚いた顔をする。
「こんな場末のとこで呑む男でも、女の子に興味があるのは変わらないのね。あなたの話って、どんなことを話すの?」
「別に大したことじゃないですよ? どうやって殺されたのかとか、どこに埋められたのかとか、あたしを殺した相手は今どうしてるのかとか――」
「……え?」
あれ? あたし、面接で言わなかったっけ? もう死んでるって。成仏できずにこの世をさまよってるだけだって。あたしを殺した相手に復讐してやりたくて、そのために金が必要だって。人探しにはこの手の場所が一番都合がいいんだって。……聞いてなかったのね、あたしのことなんて。どうせ、あたしはこの職業には向いていませんよ。顔面を殴打されたせいで、美人とは言い難い顔だしね。
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