666文字百物語
96、言葉はいらない Pixivでは「342」
あたしもね、もういい歳だし、結婚を考えていないわけじゃないの。ただ、あたしに見合うようなイイ男がいないだけ。それを両親はわかってない。
「女の幸せは結婚なんだから」
「そうだぞ? 一生独り者だなんて、世間になんと言われるか――」
ここのところ、そればっかり。自分たちもかなりの晩婚で、あたしが生まれたのは奇蹟に近かった。高齢出産で母は苦しんだらしいから、あたしに同じ思いはして欲しくないと口を酸っぱくして言う。ホントに余計なお世話よ。
あたしの毎日は十分充実してるんだから。毎朝規則正しく起きて、ちゃんとバランスのいい食事を食べて、仕事に行って。その帰りにはマッサージやエステ、スキルアップのための習い事をもろもろこなす。ね? ちゃんと充実してるし、やりがいのある生き方、毎日だ。あたしはこの生活を崩したくない、失いたくないの。
でもある日、両親はしびれを切らしたのか、見合い話を勝手に進めたらしい。まったく、余計なことを。
ただし、見合い写真の相手はかなり好みのイイ男だった。……ま、会うだけならいいか。
そして迎えた見合い当日。彼は一方的に自分の自慢話ばかりを始めた。学歴自慢、家柄自慢、自分がいかに優秀なビジネスマンかという自慢。口を開かなければいい男なのに、もったいない。
「ごめんなさいね。この子ったら口が達者すぎて。前に交際していた女性ともそれが原因で別れるって話になってね。別れる別れないの騒ぎの途中で刺されたのよ」
相手の母親はなんて事の内容に笑う。ホント、笑い事じゃないわよ。そのせいで引き裂かれた腹までしゃべりだしてうるさいったらない。イイ男には、言葉なんていらない。
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