666文字百物語
95、好き嫌いはいけないの? Pixivでは「330」
好き嫌いって、誰にでもあると思うの。
別に人の好き嫌いのことを言ってるんじゃなくて、ただの食べ物の話。ほら、野菜が嫌いとか、魚が嫌いとか、そんな話。
わたしは自他ともに認める偏食で、親にはうんざりするほど偏食を直しなさいなんて言われる。しょうがないじゃない。嫌いなモノは嫌いなんだもん。そういうお母さんとお父さんはどうなのよ? 全部の食材を食べられるの? 本当に地球上にあるものすべてを食べられるの? 好き嫌いなんてないの?
テスト前でイライラしていたわたしは、両親に向かってそう悪態をついた。魚を食べないし、牛乳も飲まないからイライラするんでしょ。そんなことをお母さんは言う。早く帰ってたお父さんは読んでいた新聞紙を畳んだ。
「まったく。お手本がないと駄目なのか? しょうがない子だ」
そう言って眼でお母さんに合図した。お母さんは心得たとばかりに冷蔵庫の食材を片っ端からテーブルに並べる。野菜はともかく、生肉、生魚はまずいんじゃないの? 味がついてないでしょ?
「いいか? 俺は好き嫌いはないからな。味がなくても食べられるんだ。そういえば太郎も食べてみせるか?」
太郎というのはうちで飼ってる犬のことだ。わたしもかわいがってる。……でも、まさか。
「そう言うと思って準備しておきましたよ」
お母さんがテーブルに運んできたのは、見たことのない肉だった。でも、形はそのままで――
「犬は鍋の方が美味いらしいが、生でも悪くない」
お母さんもお父さんと一緒に太郎だったものを美味しそうに食べていた。わたしは全身の血が引いていくのを感じた。
Copyright (c) 2023 rizu_souya All rights reserved.
-Powered by 小説HTMLの小人さん-