666文字百物語
93、報われない恋 Pixivでは「474」
君のことが、好きなんだ。
寝ても覚めても、食べても着ても脱いでも、なんて、わけのわからない例えが浮かんでくるくらいに、おかしくなるくらいに好きなんだ。
こんな気持ちになったのは生まれて初めてだった。恋愛なんてくだらない、どうせ結婚したところで浮気や不倫で別れる羽目になるんだろうって、そんなネガティブなことばかり考えていた。ひとりの人間が、ひとりの異性にだけ首ったけ、なんて現実にはあり得ないって、ずっと思ってた。
僕の母さんの生きざまを見ていたからよくわかってる。母さんは若い頃こそ美人だったのに、今では見る影もないオバサンだ。息子の僕でも一緒に歩くのは恥ずかしいと思うくらいだ。でも、彼女なら、あの子ならば、そんなことなどあり得ないって断言できる。僕が幸せにしてあげるんだから、そんな悲惨な想いなどするわけがないじゃないか。
それでも、僕は告白というものをしたことがなくて、国語も得意じゃないから、上手く告白できない。気持ちを伝えられない。……でも、交際したい。結婚を前提にして。
「――というわけで、付き合ってください。できることならば今すぐにでも結婚してください。僕にはその覚悟がありますから」
「う、うん……わたしのことを好きだって言ってくれるのは嬉しいよ、すごく。人に好かれるのってそれだけで嬉しいし。でも、あなた、そもそも人間ですらないでしょう?」
彼女は若干顔を引きつらせながら、僕の顔を指差した。それでも僕にはピンと来なかったので、彼女は鏡を貸してくれた。
「……僕のどこがヘンなの?」
「言いにくいけど、人間とロボットがつき合うとか、ムリじゃない?」
たしかに僕は、母さんの開発した、人間の感情を乗せたロボットの試験体だ。でも、それがなんだっていうんだ? お互いに気持ちが通じていればそれでいいじゃないか。人口なら、適当に増えてくだろうしさ、きっと。
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