666文字百物語
92、真夜中は晩酌 Pixivでは「」
夕食には晩酌が欠かせない。それはぼくだけじゃないだろう。
ぼくの友達の愛煙家は、食事を抜いてまでタバコへの愛を貫いた。
でも正直、ぼくにはタバコの魅力なんてわからないんだ。あんな匂いのするものよりも、同じ匂いといっても芳醇な酒の方がよっぽどいいじゃないか。君もそう思わないかい? あぁ、君はまだ未成年だったっけ。じゃあお酒に魅力はわからないだろうね。
お酒ってね、人の心をリラックスさせてくれるんだよ。それに、程よく眠りを誘ってくれる。素晴らしいものなんだ。ぼくの忠告を無視して、タバコで肺がん直前になった上に餓死した彼は、酒を呑めばよかったんだよ。そうすれば、あんなにいつもピリピリしなくて済んだはずなのにね。
それにしても今日の酒も美味しいなあ。これに揚げ物があれば最高だ。枝豆でも悪くはないけれど、ボリュームに欠けるんだ。……一杯だけじゃ足りないなあ。もっと呑んで――
「……今度は二階の○○さんですって」
「それで、死因はなんなの? あの愛煙家と同じく生活保護で餓死?」
「ううん、肝硬変ですって。……嫌になっちゃうわよね。わたしたちの夫が稼いだお金がこんなことに使われるなんて」
「ホントよね」
救急車で運ばれていく男の遺体は、呑み続けた酒のせいで腹が大きく膨れていた。
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