666文字百物語
91、愛煙家の朝食 Pixivでは「253」
おれは愛煙家だ。タバコをこよなく愛し、タバコのためならば死ねる。世の中では、一昔前の誰もが煙をもくもくさせていた時代が嘘のように、掌返しをして愛煙家とタバコを叩いている。おれは、タバコが可哀想でならない。
嫌われ者の自覚のあるほとんどの愛煙家は、ちゃんと場を弁えているもので、喫煙所以外では吸わない。だが、問題なのは一部の愛煙家で、連中ときたら、おれの愛しのタバコちゃんに罪をかぶせるがごとく、道端で平気でポイ捨てをする。まったく、おれたちの迷惑も考えて欲しいものだ。
おれたちはまだいい。ちゃんと行動のつけとしてその結果を受け入れるつもりでいるんだから。問題は、何の罪もないタバコだ。タバコは、タバコに生まれたくてタバコに生まれたわけじゃない。生まれたのがたまたまタバコだっただけだ。それなのに自分勝手な人間ときたら、タバコちゃんに罪を着せる。許しがたいことに。
朝食は、タバコだけ。おれはタバコさえあれば食事はいらない。タバコがおれの朝食だ。でも、腹、減ったよな――
「ねぇ聞いた? あの人って生活保護で食べてるのに、タバコに全額つぎ込んで餓死したんですって」
「餓死って……戦時中じゃないんだから」
男の遺体からは、タバコの匂いがぷんぷん漂っていた。
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