666文字百物語
88、僕と姉さんの魔法の呪文 Pixivでは「487」
いい子にしてないと、お化けが出るよ。
僕は小さい頃にずっと母さんにそう言われてきた。自分で言うのもなんだけど、素直で聞きわけのいい僕は、その脅しを素直に聞き入れた。だって、お化けなんて得体のしれないもの、怖くてたまらないから。
でも、幸い僕には味方がいた。誰よりも近くにいて、誰よりも信じられる、絶対の味方。
「だいじょうぶよ。お化けなんてこの世にいないんだから」
僕よりふたつ年上の姉さんは、いつもそうやって励ましてくれた。不思議なことに、他の誰かが『だいじょうぶ』と言っても不安は解消しなかったのに、姉さんが言うと不思議と安心できた。肩の荷が下りる、っていうのかな? そんな感じ。
それだけ仲の良かった姉と弟である僕たちだったけど、姉さんが中学に入学した途端、露骨に態度が変わった。母さんは思春期なんて曖昧なことを言ったけど、僕には理解できなかった。だって、それまではスカートがめくれようが、一切気にしないで、僕らと遊んでたじゃないか。
なんだか裏切られたような気がして、ショックだった。それに、もうあの魔法の言葉、「だいじょうぶ」を聞けなくなると思うと涙が出た。……どうして、僕を置いていくの?
弟は大事だって思ってる。だからこそ、言えない事情もある。
私はろくでもない男に引っかかってしまったらしい。自分では認めたくないけど。
「俺が好きならさぁ、弟となんていらねえよな? 俺以外の男がおまえの視界に入ると思うとさ、腹立つんだよな」
あの頃、言っていた魔法の呪文を欲しているのは、今や私の方だった。
Copyright (c) 2023 rizu_souya All rights reserved.
-Powered by 小説HTMLの小人さん-