666文字百物語
86、私には、見えない Pixivでは「193」
子供ってね、大人には見えないものも見えるらしいわ。
なぜそんなことを急に言い出すのかって? だって、私の娘がことあるごとに言うんだもの。
『ママ、あそこにちいさいおとこのこがいてね、こっちをにらんでるよ』なんて。
それは一度や二度じゃなかったの。何度も娘は私には見えない何かを見つけれては、私に教えてくれる。
『ママ、ここにこわいかおをしたおんなのこがいるよ』
ずっとこの調子。私はいつも娘の手を引いて、晩ご飯の買い物に出かける。いつも幼い娘には何かが見えているらしい。私は信じたふりをするけれど、信じているわけじゃない。
ある日、娘が寝静まった後で、夫と二人で晩酌をする。
「それでね、あの子ったらまた『見えた』んですって。おかしいわよね」
「……おまえには見えないのか?」
夫はビールを飲みながら神妙な顔をする。いったいどうしたというの。
「見えないわよ。心霊現象なんてバカバカしい」
「あの子が見ているのは、おまえが昔無理に殺した子供たちだよ。……本当に覚えていないのか? あの時のおまえはノイローゼになって、殴る蹴るの暴力を振るって、結果として死なせてしまったんだ。きっとおまえを怨んでこの世に戻ってきたんだよ」
夫まで何を言うのかしら。私の娘はただひとりだけ。寝室で眠っている――
「きゃあぁぁぁぁ!」
娘は大量の真っ青な顔をした子供たちに、寄ってたかって首を絞められていた。子供たちが一斉にこちらを向いた途端、私の意識はどこかへ消えていった。
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