666文字百物語

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  82、お留守番のぷろ Pixivでは「367」  

「お嬢ちゃん、ひとりなの?」
 おじさんは、そうきいてきた。わたしは「うん」って答えた。
 わたしはお留守番をしてるんだ。お父さんもお母さんも、今はいない。だから「うん」って言った。
「こんな小さな女の子だけでお留守番なんて。ひどい親だねぇ」
「別に。なれてるからへいき」
 ようちえんのころから、わたしはずっとお留守番をしてきた。漢字でちゃんと『お留守番』って書ける。そのくらいのなれっこ、ぷろなのだ。
「ひとりじゃ寂しいだろうから、おじさんも一緒にいてあげようね。これで寂しくないし、安心だろ? なにしろおじさんは大人だからね」
「うん」
 大人がいないと安心できないわけじゃないけど、ひとりはもうあきちゃった。
 わたしはおじさんにれいぞうこのなかの麦茶を出した。おじさんはきょろきょろと、家の中をみまわしてる。
「……ところで、この家のへそくりってどこかな? 場所、わかる?」
「うん」
 わたしは知ってる。金庫の中だよって教えてあげた。おじさんはうれしそうに、金庫を開けていく。ぷろだね。
「ひっ!」
 ……でもね、わたしもぷろなの。だいじなものをそうかんたんにはわたしちゃいけないってわかってるの。
「これは――」
「おじさんって、大人なのに大事なものを入れるところは金庫だってことを知らないの? お父さんとお母さんを入れておいたの。大事だから」
 わたしがそう答えると、おじさんは白い顔でこっちを見た。大事なものは、金庫に。おじさんったら、大人なのにそんなことも知らないんだね。
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