666文字百物語
78、僕の偏食が治ったわけ Pixivでは「479」
今日もひとり、コンビニから買ってきた弁当を食べる。
いつもと何一つ変わらない僕の食事は、味気ないのはもちろん、寂しさにももう慣れてしまった。一日に三食食べなくても、一食で僕は十分。それほどたくさん食べるタイプじゃないし。
こんなこと、実家の母さんに知られたら注意どころじゃないな。母さんは昔から過保護だから。いきすぎるくらいの過保護だから。僕が少し食欲がないってだけで、とんてもないものを僕に食べさせようとするから。
『あなたが心配だから言っているのよ? なぜわからないの?』
僕は両親が年を取ってから運よく生まれた子供であり、親から見れば大事でたまらない、待望の長男というわけらしい。今時、長男とかさ。そんなことに拘らなくてもいいと思うんだけど、会社を経営している父さんは後継者が生まれて良かったと、会うたびに言う。母さんは前述の通りの過保護で、僕が引くだけ尽くしてくれる。
その僕とは対照的に、姉さんは放任されて育ったようで、なにかにつけて羨ましがられた。親に贔屓されるのは、親の都合であり、僕のせいじゃない。そう何度も反論したけど、姉さんは引かなかった。
そんな過保護で育った僕は、家族がうっとおしくてたまらなかった。姉さんのように対立してくれる方がむしろスッキリした。
その姉さんは、今はもうこの世にはいない。好き嫌いの多い僕の悪癖を治すための犠牲になったんだ。
それまでベジタリアンだった僕は、肉や魚が一切ダメで、食べられなかった。でも、程よく肉のついた姉さんだったモノは、とてもおいしいと思った。それから僕の肉嫌いは直った。
今こうして唐揚げ弁当が食べられるのも、思えば姉さんのおかげだな。そう思うと、姉さんがいたのは幸いかもしれない。
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