666文字百物語

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  75、お嫁に行きたくて Pixivでは「294」  

 殿方って、わたしのような女は好みじゃないんですよね。
 他の娘のように、胸が小さくて、お尻の大きな安産体型が一番なんですよね。
 わたしはその真逆の体型。胸が異常に大きくて、お尻がきゅっと締まってる。こんな体型じゃ、お嫁にもらってはもらえない。せっかく貧しいながらにわたしを育ててくれたお父さまとお母さまに申し訳ない。二十歳にもなって嫁の貰い手がないというのは一大事だ。どうしよう、どうしよう。
 周囲の娘たちは、みんなわたしと同じように習い事をして、勉強もして。それでたまに遊ぶ。同じ生活をしているというのに、なぜ見た目だけで殿方は妻となる女を選ぶのでしょう? なぜ中身を見ることはないのでしょう? わたしだって、人並みに殿方に好かれてみたいし、おデートにも誘われてみたい。……そのために障害となるのは、お尻はともかく、この邪魔な胸だ。
 わたしは思い切って、この胸を包丁で切り落としてやろうと思った。包丁はよく砥いであって、これならば邪魔なこの胸も切り落とせると思った。長年の肩こりともさようなら。
 耐えがたい痛みを感じながらも、わたしはどうにか胸を切り落とした。ふたつの乳房は血まみれで下に転がっている。念入りに消毒をして、自分で手当てをした。この世のものとは思えないくらい苦しかったけど、これでお嫁にもらってくれるのならばと、わたしは耐え抜いた。何日も痛みで眠っていられなかった。それでも、お嫁に行けるのならばとわたしは耐え続けた。

 
 しばしの療養生活の後、外に出ると、かつてのわたし以上に胸の大きな娘が次々に嫁入りする光景が目に入った。これは一体、どういうことなのだろうか。他の人に訊いてみた。
「あぁ。なんでも西洋の影響で、今時は胸の大きな娘が流行らしいよ?」
 それを聞いて、わたしは目の前が真っ暗になるのを感じた。世の中とは、なんとひどいものなのだろうか。失ったわたしの胸は、今やぺたんこだ。
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