666文字百物語

モドル | ススム | モクジ

  73、怖がっているのはどっち? Pixivでは「316」  

 なによ、この子。
 あたしは平静を装いつつ、継子を見る。あたしの実の娘とは明らかに育ちの違う、品のある娘。賢そうで、地味なドレスを着ていても、一目で育ちがいいんだってわかる雰囲気を纏ってる。それに比べて、あたしの娘はどうだろう。ふたりともいかにも成金が服を着て歩いてるみたい。いくら高価で名の知れた仕立屋によるドレスを着ていても、育ちというものは見える。あたしの嫁入り、再婚の時に二度目の夫と歩いている時の周囲の視線も冷たかった。
 ――誰? あの下品なオバサン。
 あたしよりも年かさの女でさえ、あたしをそんな眼で見た。侮辱した。同時に継子には同情の視線が集まった。
 ――あの子もいい子なのに、あんなのが母親になるんじゃたまったもんじゃないよね。
 察しのいい継子はきっと、その視線に気づいてた。気づいていて、自分は父さえ幸せならばそれていいんです、わたしは我慢します、って顔をしてた。大人しそうな顔をして、それがあの継子の本性なんだ。あたしを馬鹿にしてるんだ。そうに違いない。


「お義母さま、お掃除が終わりました」
「他にもやることがあるでしょ! 何をぐずぐずしてるのよ! 風呂掃除もあるんだし、あたしとあんたの義姉さんたちのドレスの準備もしなさい!」
 継子は殊勝な顔をして、俯いて外に出る。そうやって他人の眼のあるところで継母にこき使われてるんだってところを見せつけたいのよね? 自分は苦労してるんだってところを見せつけたいのよね? 外に出た継子は、若い男たちに囲まれていた。どれも働き者の、力持ち。手には斧や鉞を手にして、継子と話している。
「君の義母はひどいね。一度懲らしめてやろうか?」
「その方が本人のためだよ」
 しきりに男たちはそんなことを言っている。しかし、継子は断る。
「駄目よ。お父様が悲しむもの」
 でもその口元が面白くてたまらないとばかりに笑っているのをあたしは見た。結局周囲はあの子の味方なのだ。誰か、この事に気づいて。
モドル | ススム | モクジ
Copyright (c) 2023 rizu_souya All rights reserved.
 

-Powered by 小説HTMLの小人さん-