666文字百物語
70、八は神聖な数字 Pixivでは「269」
『八』って数字は、日本においては特別な意味を持つ数字、選ばれた数字、神聖な数字だ。
僕の名前は八神八夜。読みは『やがみやよ』よく女みたいな名前だと揶揄されるが、僕は自分の子の名に誇りを持っている。なにしろ八が二つも入ってる。
なぜ八が特別かといえば、かの有名な日本の神話である古事記に出てくる神聖なものは、ほとんどが八がつく。八咫鏡、八咫烏、かの有名な草なぎの剣もヤマタノオロチのしっぽから出てきたんだ。ここまでいえばわかるだろ?
そんな特別な存在である僕は、たまに奇妙な夢を見るんだ。八つの頭がある龍を、ヤマトタケルのミコトよろしく退治する夢だ。
夢の中の僕は恐ろしく知恵の働く賢者で、周囲から頼られるひとかどの人物だ。誰もが僕の知恵を必要としている、僕がいなければ何もできずにいる。そんな無力な連中に、僕はいつも仕方がなしに知恵を貸してやるんだ。
その日もそうだった。
「……あの、どうしても殺したいひとがいるんですが、なかなか隙を見せてはくれないんです。どうすればいいでしょうか?」
僕はそんな簡単なこともわからないのかと呆れ、目の前の女にアドバイスをしてやる。
「そんなの、酒でも薬でも盛って、眠ったところをぐさりとやればいいだろう?」
「途中で目覚めたら?」
「そんなことがないようにするために薬を使うんじゃないか」
まったく、知恵の働かない奴だ。相手は頷き、笑う。
「ありがとうございます。これであいつをぎゃふんと言わせてやれます。……最近すっかり生意気で」
翌朝、僕は熱っぽかった。家に備え付けてある薬を飲もうとして、一度に飲む量が八錠だと書いてあった時は眼を疑った。なぜそんなに飲まねばならないのか。
母さんはいつも通りの顔をして、朝食を持ってきた。
「どうかしたの? 熱があるんなら薬を飲まなきゃ。さあ」
その時の母さんの顔は、逆光でよく見えなかったけれど、少し笑っている気がした。
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