666文字百物語

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  65、ある医師と患者の会話 Pixivでは「390」  

「それでですね、幻聴? っていうんですか? なんかそんなものが聞こえるんですよ。……これってもしかして、病気でしょうか?」
「幻聴、ですか。そうですね、中にはそういう方もいらっしゃいますね。ただ、正式に病気としてカテゴライズはできないんですよ。様々な症状が出るものであって、人によってそれは異なるんです。幻聴が聞こえるからって、重症だと思いこむのは少々危険ではないかと思いますね」
 かたかたとパソコンに打ち込むふりをする。これだけで相手はちゃんと聞き入れてもらえたのだと安心してくれる。我々は白衣を着ていないから、なかなか医者とは見てもらえない。それが目的で着ていないわけだけれど。
「その他にも、ここ数日は肩が重いんですよ。なにか重いものが乗っているような気がして――」
「なるほど。肩こりが激しい。でもうちの管轄ではないんですよ。それは専門のところにかかっていただかないと。さて、睡眠はどうですか? よく眠れていますか?」
「……それが、あまりよく眠れないんです。一度眠っても、すぐに目が覚めてしまって」
「そうですか。では薬の量を増やしておきましょうか」
 処方箋にさらさらと書きこむ。彼は気づいているのだろうか。それらは私たちの専門ではないことを。いくら医者、精神科に罹ったとしても治らないということを。
 霊はそれ専門の者でなければ祓えない。その手の専門家なら私にもつてがあるのだし。
 ……でもこの状態は傍目には愉快だから、黙っている。さて、彼はいつ気づくのだろうか。
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