666文字百物語

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  62、この世で最も興奮するギャンブル Pixivでは「285」  

 ……もう、死ぬしかない。
 俺は通帳の残高を見て、そう決意した。人間として、最低限の生活をおくる資金はおろか、大好きなパチンコもできない。パチンコが趣味で生きがいの俺には、パチンコのない生活など死んでいるも同じだ。いや、パチンコだけじゃない。ギャンブルにつぎ込む金がないなんて、プロのギャンブラー失格だ。どこで人生間違えた?
 ガキの頃から、俺の将来の夢はプロのギャンブラーだった。
 勝負に金を賭けて、華麗に勝って、賞金を手にする。なんてカッコいい生き方だと思わないか? 毎日長時間汗水たらして働くのがバカみたいじゃないか。俺の親父もプロのギャンブラーで、負け知らずだった。その親父の息子の俺なら、親父以外には負け知らずのギャンブラーになれる。そう信じて、俺は若い頃から各種ギャンブルに囲まれて育った。麻雀、花札、丁半。パチンコは流石に未成年だから無理だったけど。その他の賭け事ならこっそりとやってきた。いわば俺はギャンブルの申し子だ。
 その俺が、今になって軍資金がなくて、生活にも困ってる。何か手はないか。俺の命を賭けてもいい。この人生、一発逆転できるならなんでもいい。


「なら、ドナーになりませんか? ちょうどあなたの臓器が適合する相手がいるんです。生きるか死ぬか危険な手術ですが、生きるか死ぬかのギャンブルですよ」
 そんな電話が突然かかってきた時は、運が向いてきたと思った。生きるか死ぬか、滾る勝負じゃないか。 「えぇ、構いませんよ。上等です」
 俺はそう返した。これで勝負の人生から降りずに済む。一発逆転だ。


「やっぱり金に困っているらしいですよ」
 医者は死の淵に立たされた患者に語り掛けた。
「当たり前だ。俺の息子だぞ? この勝負に乗らないようなら、あいつじゃない」
 患者は確実に自分が助かるのだと知り、にやりと笑った。
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