666文字百物語
61、未来が来れば Pixivでは「189」
眼を開けると、そこはもう未来だったようだ。
視界に広がるのは、見たことも聞いたこともない、機械の山にロボットが何体も働いている。漫画で読んだとおりの、テンプレな未来図が目の前にあった。
ここならば、僕の動かなくなった足も再び動くようになるだろうか。
「ようこそ、未来へ」
人間の女の子がにっこり笑った。彼女も漫画でよくある未来の服を着ていた。
「ここは未来なのかい? 僕は足が治る医療技術が発達することに賭けて、コールドスリープに――」
「もちろん治るわよ。ここは未来だもの。あなたからしてみれば、ね」
彼女は他にも僕のような者がいるのだと紹介してくれた。
「君もコールドスリープに? 私は百年前に目覚めたよ。ここは寿命が無限にあるんだよ」
「食べ物はロボットが準備してくれるし、働かなくてもいいの。いい時代になったよね」
「何をしてもいいんだよ。こんな自由なことってないじゃないか」
みんな口々に言う。僕の足も治ることだし、なにも文句の言いようなんかない。ただ――
「……家族も、友達も、もうこの世にはいないんだよね?」
カレンダーによると、今は西暦2300年だそうだ。景色はすっかり人類の夢見た未来そのもの。女の子が笑う。
「友達も家族も、この時代で新しく作ればいいじゃない。ねっ、これから私たち、みんなで仲良く過ごすのよ」
それでもいいか、いや、それしかない。
僕はこの自由で何でもできる時代で生きていくことにした。
「この患者さん、もう腐ってますね。匂いがひどいですよ」
「そりゃあ、もう数百年も前の身体だろう? 腐敗も進むさ。いいよ、破棄しちゃって」
大量の医療技術発展に賭けた患者の身体は、既に大半が腐っていた。
人類の夢見た未来など、所詮は夢物語に過ぎなかったのだ。
Copyright (c) 2023 rizu_souya All rights reserved.
-Powered by 小説HTMLの小人さん-