666文字百物語
59、「け」 Pixivでは「476」
カニバリズムって、なにも美食家を名乗る連中だけの専売特許というわけではないらしい。
一部の民族の間では、強者の肉体の一部――臓器とか、その他にもグロテクスな部位とか――を取り込む、食べることで、食べた人間にもその強さが手に入るという、まじないのような意味合いで行われることもあるそうだ。
他にも、儀式とか、宗教の事情とか、そんな理由で行われたりもするらしい。
そんな蘊蓄が書いてある本にざっと目を通したところで、待ちかねていたご当地料理が運ばれてきた。
俺のライフワークは、食べることだ。
日本各地、世界中の珍しいものを食べるのが趣味であり、生きがいだ。子供の頃から食べることには人一倍好奇心が旺盛で、熱中していた。名店と呼ばれる店にも何度も足を運んだ。それでも俺が百パーセント満足するような食事は、これまでになかった。
「け」
料理を運んできた婆さんが一文字言った。何の意味かは知らんが、料理が出た以上は食べるのが礼儀だ。
「……うっめえ!」
この肉料理は、生まれて初めて食べた。なんの肉なのか、この俺に判別できないなんて事はこれまでになかった。いったいなんの肉なんだ? ゲテモノ料理でも多少は平気だが――。
「めが? 犬のじゃっぱ汁」
「めが」の意味は理解できないものの、この婆さん、今、犬って言わなかったか?
でも、美味しかったんだ。昔は、戦争中は、犬も食べていたって話も聞いたことがあるし、これもまた、郷土料理なんだろう。カニバリズムにならなかっただけ、まだましか。
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