666文字百物語

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  58、なんちゃって科学的仮説 Pixivでは「453」  

 こんなこといいな、できたらいいな。
 そんなこんなで二十二世紀がやってきた。人類が夢見た、発展した未来は、生活が格段に楽になった。
 でもこれは秘密なんだけど、ある一部の人はその便利さの裏には恐ろしい秘密があるということを知っている。
 たとえば、どこにでも移動できる『瞬間移動ドア』なんてものができた。ドアをくぐるだけで、どこにでも好きな場所に移動できるというものだ。なんて便利な二十二世紀!
    ……しかし、その便利さに眼をくらませてはならない。便利というのは何かの犠牲と共に成り立っているものなのだから。
 物質が、瞬間的に移動するなどということはない。ドアをくぐる前のあなたと、くぐって目的地にたどり着いた時のあなたが、果して『本人』だといえるだろうか? いや、厳密には『百パーセント同じ人間』であると、いったい誰が証明できるだろうか? ドアをくぐる前のあなたをAとしよう。くぐった後のあなたはBだ。Aはドアをくぐる。しかし『瞬間』移動するのだから、同じ場所に同じ人間、AとBが同時に存在してはならない。そんなことがあったら、地球は人口の増加で足の踏み場がなくなる。……ではどうするか?
 答えは簡単だ。
 Aをドアをくぐった瞬間に消し去ればいいのだ。そうすれば、Bの存在はなんらおかしくない。同じ記憶を持った『あなた』が移動先いるだけだ。
 ただし、先ほども言ったように、便利さは何かの犠牲があって成り立つものだ。もしかしたら、ドアをくぐった後のAは地獄の苦しみを味わっているのかもしれないのだ。
 どうかそのことをお忘れなきよう。
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