666文字百物語

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  57、ユートピア? or ディストピア? Pixivでは「476」  

 ここは天国だ、楽園だ。
 なにしろ働かなくていい、昼間から酒を飲んでいい、タバコも無料で好きなだけ吸えるし、違法ドラッグも打ち放題吸い放題だ。
 俺のようなアウトロー(といえば格好がつくと思っているわけじゃない、ただその言い方がしっくりするだけだ)が、こんないい思いをしていいのかとは思ったが、まあこれまで馬車馬のように働いた挙句にボロ雑巾のように妻に棄てられた身からしてみれば、もうどうでもよかった。ここはユートピアだ。酒は毎日飲んでも減らないし、タバコも煙をもくもく吐きほうだい。こんなに堂々と煙草を吸ったのはいつぶりだっけ?
「ユートピア万歳!

 そんないい気分の俺の元に、若くてそれなりの美人といえるような女が起こった顔を作って現れた。

「冗談じゃないわよ! あたしたちはね、まだ若いし、健康で長生きしたいのよ! なのになに? ここはニートに飲んだくれに喫煙者の吹き溜まりじゃないの。ディストピア反対!」
 女はいかにも見た目に気を遣っているとでも言いたげに、俺が吐きだしたタバコの匂いがついたであろう服に、消臭スプレーを噴射した。
 いくら若くて、そこそこかわいいからって、俺のユートピアを邪魔するのは許せない。
「だったら俺から離れてればいいだろ? ……それともなにか? 俺にほの字とか?」
 言って豪快に笑ってやると、女は悔しそうな顔をした。
 だが、伊達に気が強いわけではないらしい。
「いいえ! ここは間違いなくディストピアです! あたしの大好きなイケメンがひとりもいなじゃないの! こんなところで老けていくなんてまっぴらごめんだわ!」
 俺がここをユートピアだといった理由、それは、俺以外の住人が全員女だからだ。
 俺にとっては間違いなく天国なのに、女にとってはそうじゃないんだな。ま、俺は自分さえ良ければそれでいいけど。
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