666文字百物語
53、姉想い Pixivでは「386」
僕の姉は、優しくて、甘い。
歳の離れた姉と弟だから、特にケンカにもならないし、我が家は平和なものだ。いつも姉は居間で宿題を済ませる。學校に通い始めてからはいつもそう。僕はその姿をちらちら見ては、遊びに来た友達に不審がられている。
「おまえの姉ちゃん、きれいでやさしそうで、いいなぁ」
何度そんな言葉を聞かされただろうか。
そんなことなんか、言われなくとも僕が一番よく知っている。僕の姉は誰よりも美しくて、優しくて、本当に理想の人なんだ。たおやかな優しさが好きで、彼女の作る食事はいつも残さず平らげる。
姉が僕に不満があることは知っている。『お姉ちゃん』と呼ばないことだ。でもね、僕にはそんな真似、土台無理なんだよ。だってそうだろ? 好きな異性を姉扱いだなんて、そんなのは本物の恋心じゃない。好きだからこそ、逆によそよそしくなることもあるんだよ。けど姉は賢明な人だから、この関係を壊そうとはしない。だから、こうして今でも普通の『姉弟』でいられる。他の男が相手なら、姉は手加減無用に攻撃するけど、僕は弟だから。弟に危害を加えるような姉ではないから。その好意に僕はいつもつけこんでいる。
そして、誘いが来た。
「お友達からもらったのよ。一緒にどう?」
最近は姉に避けられている気がしたんだけど、僕を誘うってことはまだ大丈夫の証拠。
「うん、楽しそう!」
僕は精一杯、『無邪気』の仮面をかぶる。暗い場所に一緒に行って、危険があっても知らないよ? この人は賢いくせに、隙が多いんだ。……そこもまた、たまらなく好きなんだけどね。僕のこの想いは、きっとただの姉想いでは済まないんだろうな。
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