666文字百物語
52、鈍感なお兄ちゃん Pixivでは「403」
あたしはね、お兄ちゃんが好きなの。それはもうね、小さい頃からお兄ちゃんだけ。あたしの視界に入る男はお兄ちゃんだけで十分。他の男子なんか目に入らないくらい、あたしのお兄ちゃんは完璧だから。
見た目、真面目系イケメン。成績、トップクラスに優秀。スポーツ、もちろん万能。性格、とっても優しくて、滅多に怒らない。寛大で、面倒見が良くて、誰にでも親切で。
だから予想通り、年頃といわれる頃になると女がこれでもかってほどに群がってくるの。たったのひとつだけど、年下のあたしじゃ、さすがに四六時中一緒にいるわけにはいかないから、悪い虫を追い払うのにも限界がある。
最近のお兄ちゃんは部活での大会を控えてるから、帰りがいつも遅い。あたしはいつも夕食も一緒に食べようと待ってるんだけど、お兄ちゃんから甘い匂いがするようになったの。少なくとも男物ではない、香水のにおい。本来ならいい匂いだと思うはずなのに、他の女がつけたものだと思うと一気に汚らわしいと思うようになった。お兄ちゃんもお兄ちゃんだ。なぜそんな隙を見せるのよ。そんなんだから女子に押しかけてこられて、告白ラッシュに巻き込まれるのよ。
「でも相手に悪気はないから」
責めるといつも返ってくるのはこの返事。……なによ、お兄ちゃん、困るなんて言いながらまんざらでもないんじゃない。心配して損した。
……でも、モテるお兄ちゃんを持つのも、あたしには自慢だ。それだけであたし自身の価値も上がる気がするから。
「夕食はきみが作ってるんでしょ? 兄貴がいつも自慢してたよ」
そんな褒め言葉まで頂戴する。そうよ、お兄ちゃんの口にはあたしが作ったもの以外は入れたくないから。
今日もあたしは夕食を作ってお兄ちゃんを待ってる。メインはお兄ちゃんの好物のメンチカツ。ちょっと隠し味を入れてみたんだけど、気づくかな?
「やっぱりおまえの料理はおいしいな!」
お兄ちゃん、気づかなかった。せっかく大好きなお兄ちゃんをあたしだけのものにしようと思って、農薬をちょっとだけ入れたのに。隠し味にも気づかないお兄ちゃんはやっぱり鈍感ね。
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