666文字百物語

モドル | ススム | モクジ

  50、過剰な結婚願望の果て  

 わたしは、おばあちゃんが大好き。お父さんよりも、お母さんよりも、おばあちゃんの方が好きだ。
 だから、おばあちゃんが認知症にかかってしまった時は、本当にショックだった。たったひとりの孫娘として、わたしをかわいがってくれたおばあちゃんは、今や記憶を失ったただの老人だ。見た目だけは変わらない、おばあちゃんそのものの姿をしているのに、中身だけが入れ替わってしまったみたいだ。
「あんた、誰だっけ?」
「わたしよ、おばあちゃん! おばあちゃんの孫だよ!」
「私には孫なんかいないよ。年寄り扱いはよしとくれ!」
 おばあちゃんはもう、わたしのことなんか忘れちゃったの? あんなにわたしのこと、かわいいかわいいって言ってたのに? ……それなら、いっそこの手で殺してしまおうか。わたしのことを忘れたおばあちゃんなんか、いらない。いらないよ。おばあちゃんの姿をした別人になんか、わたしは用はないよ。
 だからわたし、頑張っておばあちゃんの首を絞めた。眠ってる時に、両親の寝室に聞こえないように、ちゃんと部屋をびっしり閉めて。これでさよならだね。生まれ変わっても、わたしのおばあちゃんでいてね?
「!?」
 おばあちゃんはわたしが悲しみで力が弱くなった時に、逆にわたしの首を絞めてきた。痛い、痛い。痛い!


「あれ? ○○は?」
「そういえば、いないわね? 義母さん、あの子を知りませんか?」
 おばあさんはお茶を飲みながら、「そういえば強盗が入ったみたいねぇ」なんて呑気に言った。その手には、無数のひっかき傷があった。
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